Vol.114 マーケティング事業の課題「ストリーミングTV」(前編)

vol114.表紙


<5月号の目次>

◎ マーケティング事業の課題「ストリーミングTV」(前編)

◎ マーケティング事業の課題「ストリーミングTV」(後編)

◎ 日本と米国の逆行する数値の比較(前編)

◎ 日本と米国の逆行する数値の比較(後編)

◎ 【コラム】シェアリング事業の違いとそこに秘める社会的価値

◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース

 



マーケティング事業の課題「ストリーミングTV」(前編)

 

11989年(左)と2018年(右)の世界の企業時価総額の比較(数字単位は億ドル)

図1

出所)週刊ダイヤモンド(2018年8月17日)

 

本章では、世界の企業価値ランキングの変遷を振り返りながら、マーケティング事業の課題について考察しよう(図1参照)。

図1は、平成元年(1989年)から平成最後の年(2018年)までの世界の企業価値ランキングを示している。MAD MANレポート読者もお馴染みの比較ランキングだが、「あの頃は日本企業が上位10社に8社」や「今はトヨタだけ」のような日本企業のランキングの変動だけでなく、「現在の上位企業の特性変化」や、「企業価値の絶対値(兆ドル規模)の把握」、さらには「外側(50位の外)への目線」に注目していきたい。

前編では「マーケティング・サービス企業」の位置づけを俯瞰し、後編では日本のマーケティング施策で注目されていない「ストリーミングTV(映像コンテンツ)」の世界的な動向を数字と共に見ていく。生成AIばかりがコンテンツではない未来を見据えつつ、明日の足元から観察し、現状を把握することが重要だ。

図1に戻ると、1989年当時の世界一位はNTTで、その企業価値は1,638億ドル(青枠)だったが、これが2018年では48位相当である。30年間のインフレ率を考慮しない比較でも、世界市場が莫大に成長し、相対的に日本市場は低下している様子だ。1989年当時のドル円レート(130円)で換算すると、NTTの規模は約21兆円だった。

 

図2:2024年5月時点の世界の企業価値ランキング10社(数字単位は兆ドル)

出所)CompaniesMarketcap.com より作成(2024523日)

 

図1の右側の赤枠は2018年のランキング上位10社を示しており、世界一のAppleが9,410億ドル(104兆円、1ドル=110円で換算)。現在ではさらに成長し、2024年5月時点ではMicrosoftが世界一位の企業価値を持っている(図2参照)。

図2のデータによると、Appleは5年間で約3倍(211%増)、Microsoftはさらに大きく4倍(293%増)にまで成長している。特にMicrosoftの5年で4倍の成長は注目に値する。現在の1ドル150円で換算すれば、Microsoftが約480兆円、Appleが約439兆円の規模である。図2の単位は「億ドル」では表記しきれず、「兆ドル」で表記している。

2018年にランク外だったNVIDIAは、今やAmazonやAlphabetを抜いてAppleに迫るサイズで世界3位の350兆円(2.336兆ドル)に成長した。これら上位3社は企業価値「400兆円級企業」として記憶しておきたい。

また、2018年には未上場だったSaudi Aramco(サウジアラビアの石油発掘会社、2019年12月に上場)や、TSMC(台湾の半導体企業、熊本県に工場進出をしたことでお馴染み)は5年前の4倍、10年前の比較ならば8倍の成長スピードで世界の上位企業になった。

 

図3:TSMCの株価推移

図3-1

出所)Google Finance

 

■企業価値ランキング300位に登場するマーケティング・サービス提供企業

本章では、図1や図2で示された有名な上位企業ランキングに続き、報道されることの少ない300位までの企業リストを対象にして、マーケティング・サービス提供企業を探し出し、解説する。世界300位相当の企業としては、PayPal(288位)、東京海上火災(287位)、BMW(292位)などが含まれる。

そもそも「マーケティング産業」という分類は、「食料品」「化学」「医薬品」「自動車」などの分類業種をしている「日本標準産業分類(総務省)」には存在せず、「サービス業」として大まかに括られている。

この分類が難しいために俯瞰的な視点で見えにくくなっている「マーケティング・サービス企業」を世界企業ランキングから強引に絞り出す。筆者の統計分類では、「マーケティング・サービスを他企業にB2Bで提供することを経営の柱の一つとしている企業」と定義する。

一方、自社の経営でマーケティング戦略・施策が長けている企業(マーケター・ブランド)は省いている。そもそも自社でマーケティング活動をおこなわない企業は存在せず、すべての企業が「マーケティングと関わる」企業のため区分した。

<対象企業の選定>
マーケティング・サービス提供企業として以下を対象に含める。

  • 広告代理店、アドテク企業:WPP、Omnicom、Dentsu、The Trade Deskなど
  • コンサルティング企業:Accenture
  • メディア企業:NBC、ABC、CBS、NYT、Condé Nastなどの親会社
  • 映像コンテンツ企業:Netflix、Disney、Paramount、SONY、Tencentなど
  • CRM企業:Oracle、SAP、Salesforce
  • Eコマース、プラットフォーム提供企業:com、Walmart.com、Temu.com、Booking.com、Taobao、Tmall、Indeed、 Glassdoor、Samsung ADなどの親会社
  • プラットフォーマー企業:Microsoft、Amazon、Google、Metaなど、Appleは除外

<除外企業の基準>
マーケティング事業企業の範囲だが、サービス提供事業としては関連が薄い。

  • 有名物品ブランド企業:Apple、LVMH、Coca-Cola、Nike、Unilever、Fast Retailing、SONYなど
  • テレコム企業:NTT、Softbank、Verizon、AT&Tなど
  • プラットフォームとしてのマーケティング・サービス提供が柱としてはまだ小さい企業:Airbnb、Uber、SONYなど

上記の条件で、上位300社の中から抽出したマーケティング・サービス企業が19社である(図4参照)。読者がマーケターやブランド企業の関係者である場合、これらの企業とパートナーシップを結んでいる可能性が高い。

 

図4:ランキング300位までにリストされた「マーケティング・サービス」企業(赤色企業はストリーミングコンテンツへ投資・保有している企業)

出所) CompaniesMarketcap.com より作成
2024523日データ 1ドル150円で換算

 

上記の企業の中で、広告代理店は上位300社のリストから漏れていた。たとえば、Accentureが63位29兆円規模(図4参照)であるのに対し、Omnicomは1,000位台(約2.8兆円)、WPPは1,500位台(約1.7兆円)という桁違いの規模に落ちる。これらは事業価値の大きさを評価している区分ではなく、マーケティング業態における世界での影響度の先読みとして続ける。

図4の赤文字で表記している企業は、「ストリーミングTV(映像コンテンツ)」への投資をおこない、自社でIPを保有している企業として後編にて解説する。これに対して黒文字の企業は、ストリーミングTVでのコンテンツを保有せず、コンテンツを乗せる「パイプ・箱・プラットフォーム」側が主要事業として区分している。

赤文字企業と黒文字企業のわかりやすい区分の例として、Netflixの映像コンテンツのストリーミングTV配信は年間2兆円近い制作費でのコンテンツを保有し、AWSクラウド経由の配信(パイプ)と、Microsoftによる広告配信プラットフォーム(箱)を利用して、世界中に提供している・・・

 

続きはMAD MANレポートVol.114(有料購読)にて

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