Vol.113 New York Timesのゲームアプリ投資が切り開く可能性

MAD MAN Monthly Report Cover (2)


<4月号の目次>

◎ 日本のメディア信頼度「偏差値72」の意味とは

◎ 米国から見たセブン&アイのグローバル戦略

◎ New York Timesのゲームアプリ投資が切り開く可能性

◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース



New York Timesのゲームアプリ投資が切り開く可能性

2023年10月、「Microsoft」がゲーム企業の「Activision Blizzard」を9兆円(690億ドル)で買収した。自社のX-Boxと共に本業であるビジネスツールの利用促進の入口(呼び水、ファネル)として活用している例を、MAD MANレポートでは2023年〜2024年にかけて起点観測(キテカン)として紹介している。

今回は、ニュース配信(新聞)企業の「The New York Times(以下、NYT)」が、異業種とも思えるゲーム企業への投資や買収、そして、そのゲームからの有料アカウント数を伸ばしている事例を紹介しよう(図1参照)。

 

1:NYTによる「ゲーム(のみ)」とニュースも視聴できるアップグレードのメニュー

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出所)筆者撮影

 

■100万部だった地方紙がデジタル上で1,000万件のアカウントへ

NYT紙は、元々ニューヨークの人だけが読む、地方紙の一つだった(例:在ロサンゼルスの人は読まない)。日本で例えると、河北新報や神戸新聞、あるいは東京新聞のような地方紙だ。

日本企業が羨む英字紙であり、世界へのリーチの広さという有利なハンデがあるとしても、この20年でNYTは有料サブスクライバーを100万件台から10倍の1,000万件台に伸ばしている。

同じ英字メディアで有料サブスクライバーを伸ばしている「Financial Times」や「REUTERS」などと比較しても、NYTが何か別格な伸ばし方をしていることが感じられる(図2参照)。筆者独自の座標である「不思議の500万件」の分岐点は遥かに突破している。

 

図2:NYTの有料サブスクライバー数の内訳
「バンドルパッケージ」には「Newsのみ」と「News以外のアプリのみ」(ゲームやクッキング)の両方の利用を含む

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出所)NYT 2023 Annual Reprort(P.36参照)より筆者作成

 

もちろん、日々コンテンツ(記事の中身)の質を向上させているNYTの努力は一旦横に置いておく。NYTは、ビッグテック企業におけるレイオフ(一時解雇)の波が起こる中、着々とニュースルームチームの人材を増やしながら利益を増大させている。

 

■水平延長ではなく垂直統合への目線

新聞社として、コンテンツの充実に努め、記者の質を高め、記事を向上させて購読者数を増やす努力は、(間違った方向ではなくとも)水平延長の発想の域を出ない。手っ取り早くM&Aにより、近隣の新聞社を吸収合併することも、同業の水平延長である。

さらなる一手として、箱の外(Out of Box)や垂直統合もあり得る。例として、NYTは2022年1月に世界的に有名な英単語推測ゲームのアプリ「Wordle(参考:NYTリンク、Wordleゲームページ)」を数億円規模で買収し、自社アプリのメニューに取り込んだ(図1の左画面)。

極端な例を挙げると、読売新聞や朝日新聞といった有名なニュース媒体社が、任天堂やセガサミー、サイバーエージェントなどのゲーム企業に投資をおこなったり、有名なアプリ開発会社を買収したりということを想像してもらいたい。

この例では、対象がまだ日本国内に限定されている。では、国境を越えて普遍的に受け入れられているゲーム、「Fortnite」のような次世代のファン作りは考えられないだろうか、という問いかけである。NYTが印刷メディアの時代から掲載しているゲーム「Sudoku」は、元々の開発者は日本人だったのではないか。

 

■NYTのニュース読者700万人に対してゲーム利用者は300万人

図2のNYTの有料サブスクライバーの内訳は、ニュースを有料で購読している人が700万人、ニュースとは無関係である有料アカウントが300万人で、世界全体で合計1,000万人のパイプを持っている構造だ。

このパイプ(DTCビジネス)は入口として、ゲームアカウント(ARPU 540円3.57ドル/月 ※1ドル150円換算)を持つユーザーがいずれゲームを含むバンドルの有料ニュース契約(ARPU 1,960円13.05ドル/月)に切り替えることを促す、一種の呼び水の役割を果たしているようにみえる。この呼び水的なアカウントには、すでに有料コミットメントが存在し、魅力がある。

 

■アカウント数やARPUの結果よりも予兆の滞在時間数

 

図3:NYTアプリ上でのコンテンツ別の利用時間のシェア(緑色のゲームが紫色のニュースを上回って伸びている)

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出所)ValueAct Capital, March 2024

 

図3はアクティビスト(物言う投資家、ヘッジファンド)であるValueActの公開提案資料からの抜粋で、NYTアプリユーザーの滞在時間を積み上げした資料だ。グラフの下から「ニュース(紫色)」「クッキング(灰色)」「ゲーム(緑色)」「スポーツ(青色)」の区分で滞在時間を積み上げている。

2023年12月に向けて棒グラフの先が伸びている。その伸びを主な要因はゲーム(緑色)で、本業のニュース(紫色)を圧倒的に上回っている。

それだけでなく、アプリの滞在時間(棒グラフの長さ)におけるニュース(紫色)は横ばいの様子だ。ゲームが将来、ニュースを引き上げるかもしれない雰囲気は、アカウント数とAPRUの結果の数字だけでは表現できない、「埋まっている未来のマグマ」がありそうだ。

 

■DisneyもEpic Gamesへパイプ投資

 

図4:DisneyによるEpic Games15億ドル出資のアナウンス(202427日)

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出所)The Walt Disney Company

 

NYTの例(同様にMicrosoftのActivision Blizzardの例)は、Disneyにも応用が見える。

2024年2月に、Disneyがゲーム「Fortnite」で有名なEpic Gamesに約2,200億円(15億ドル)を出資した(図4参照)。これは垂直統合を図る大きな事例であるが、日本の大手メディアではあまり報じられない。このような典型的なひっそり事をMAD MANレポート読者にはご紹介する・・・

 

続きはMAD MANレポートVol.113(有料購読)にて

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