Vol.92 Amazon Prime長距離トラックの自動運転のインパクト




7月号の目次>

◎【起点観測】博報堂DYの海外事業の進出とその後

◎【コラム】オペレーティング・マージンの定義と感覚を覚えよう

◎「Accenture Song」に社名変更した効果

◎ 米国の広告出稿規模がダントツ1位の広告主は

◎ Amazon Prime長距離トラックの自動運転のインパクト

◎【新企画】MAD MANが気になったコラムセレクション

 ・2021年のNew York Timesの収支とサブスクライバーの結果-日経新聞との比較

 ・Netflixによる「広告付き廉価版」のサブスク事業発表と、Microsoftの登場

 ・どんどん進むAmazonの重いデータ側へのシフト-「サブスク医療事業」の買収

 ・日本のデロイト社のCookie許諾ポップアップのボタンレイアウトにみる企業姿勢

 ・お客さんがガラガラ、「モノを売らない店舗」の「Showfields」

 ・「SDGs」の略語よりも本来の意義である「サステナブルな」コトバと姿勢の事業運営

Amazon Prime長距離トラックの自動運転のインパクト




物流の要である「長距離トラック輸送の自動化(AV:Automated Vehicle)」について、ひしひしとその予兆を米国で感じる。図1は、青い車体の「Amazon Prime」のトラック(内燃機関)がひっきりなしに往復している様子だ(日曜正午の約30分間、州間高速道路95号線(Interstate 95)を筆者撮影)。

図1が厳密な交通量調査ではないことはお許しいただくとして、30分程の間に5〜6台見かける頻度だった。その合間に物流の競合である「Walmart」や「FedEx」は各1台程度という、雰囲気に差がある。控えめに言っても、青い車体のAmazon Primeトラックを見かける頻度が、外出自粛前の2019年以前と比較してもかなり増殖していることをお伝えしたかった。

日本での雰囲気はどうだろうか。都市部の街中での事情ではなく、高速道路における長距離トラックの様子だ。車で郊外に出られない方は気づかないかもしれないが、郊外にお住まいの方や車をお持ちの方ならば、物流トラックやAmazon Primeトラックの「肌感」の変化について伺いたい。図1は、ほんの一部を切り出したサンプル調査だが、この現象を全米や日本に拡張して推量すると、どうなっているのだろうと思いをめぐらす。


■「めんどくさい」の代行-長距離トラックの運転の価値

本章は、新規事業開拓におけるMAD MANの視座で、「その事業はめんどくさいことを排除しているか」を大きな一つのテーマとしている。開発するプロダクト(ソフト)が革新的(テクノロジーに優れている)であるのは大前提だ。

とにかくD2Cと「ま新しいサービス」の提唱が巷に溢れているが、筆者が観察している点の一つが「めんどうなことの排除」だ。この視点での事業価値は、まだまだD2Cの採算モデルが見えにくい現段階において、非常に大きいと考えている。

新規アイデアとばかりにチャラい枝葉末節を作り出すよりも、今、目の前の「めんどう」を排除する要素は常に見ておきたい。別に、ビジネスモデルは革新的でなくとも(既存ビジネスの焼き直しでも)良いくらいだ、と筆者は見ている。

長距離トラックの運送事業(旧来のビジネスモデル)は、ずっとハンドルを握っていることを前提とした労働集約型の事業であり、筆者が指摘する典型的な「めんどくさいこと」を解消するカテゴリーだ。

ところが、長距離トラックは、大衆の一人ひとりの身近には発生していないので記事ネタにされる頻度は少なく、SNSでバズるようなこともない地味な産業だ。まさに革新的なテクノロジーがあれば、その「めんどう」を解決してくれる可能性が大きい(=自動運転)。


■産業の血液である物流インフラの「めんどくさい」を解決する巨大な価値

最終消費者に届けられるすべてのCPG(家具であれ、衣服であれ、医療品であれ)には、トラック輸送が血液のごとく間に入っている。にもかかわらず、消費者の目線は、この中間の物流分野には目を向けないまま、報道メディアの誘導によって原材料や生産地の「フェアトレード」や「SDGs」などのさきっちょの分野へ関心が寄ってしまう。

さらに、このトラック輸送という仕事の供給は、「単純作業なのに過酷、1日10時間(以上)の勤務、家族と離れる時間も多く、命にかかわる(重たい側のデータ)」仕事である。

その一方で、EC市場の拡大もあって需要はどんどんと引き上がり、ドライバー不足になっている。おまけに、インフレによるガソリン価格の高騰が供給側の利益圧迫を後押ししているのが2022年の状況だ。MADMANレポートで指摘する「金融・保険」も、これと似た構造で需要が引き上がる分野である。


AmazonEC赤字は自動運転化への先行投資

直近のAmazonの会計報告(2022年第1四半期)のP/Lで、EC事業の赤字転落が表面的に伝えられた。今やAmazonの営業収益は、ECからではなく、AWS事業からであるという点は見逃せない。MAD MANレポート読者には既知の事実だ。



図2:
記事映えする「気候変動」に向けた電気自動車の配送トラック「Rivian」への投資と
1,000台購入のジェフ・ベゾスによる発表(Rivianの車体の顔をおぼえておこう)

図2

出所)CNBC(2019年9月19日)



このAmazonの2022年第1四半期はEC事業の赤字だけでなく、全社の最終赤字である。Amazonが約1,700億円(13億ドル、2021年10月)を出資した電気自動車(EV)企業の「Rivian Automotive(リヴィアン)」株の評価損として、何と投資額よりも大きい約1兆円がまるまる赤字額に反映されている点は見ておこう。

Amazonにおいては、EVの投資カテゴリーが、別話題であるはずの物流の改善、そのためのKPIの自動運転の話題の目くらましとなり、さらには「長距離トラック」の事業が見えにくくなっている。

Amazonは当時1,700億円を投資してRivian株の2割を持つ大株主だ(当時レートではなく一律$1=130円で換算)。決して「1,700億円の投資金を失った」わけではなく、1兆円のマイナスとして連結赤字にした(下記記事参照)。

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Amazon13月、7年ぶり最終赤字 新興EVの評価損響く
2022422 日本経済新聞
出所:https://onl.bz/tCZ4xXb

<以下抜粋
米アマゾン・ドット・コムが28日発表した202213月期決算は、(中略)最終損益は384400万ドルの赤字。出資する新興電気自動車(EV)メーカー、米リヴィアン・オートモーティブの株式評価損を計上し、1513月期以来7年ぶりの最終赤字に転落した。
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■日経の記事では読みきれないAmazonの懐と見通し

上記の日経の表面記事だけでは分かりにくいので、さらに筆者の簡略な解説と数字を加筆して整理する。

<Amazon「全体」の2022年第1四半期のセグメント内訳>
EC:            (赤字)3,700億円   (−28.5億ドル)           P.18
AWS :        約(黒字)8,500億円   (65.2億ドル)             P.18
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事業合計)   約(黒字)4,800億円   (38.4億ドル)             P.18
Rivian損失   約(赤字)10,000億円 (−76億ドル)               P.27
(出所:Amazon Form 10-Q 2022 March 31

上記のカラクリの経緯を整理すると、「株購入の時は1,700億円を拠出」→「その後Rivian株はもてはやされて上昇して含み資産へ」→「今期その株が暴落して約1兆円の資産の減損としてP/L赤字を計上」となる。

RivianはGMやFordを超える事業価値を付けていた(Business Insider Japan 2021年11月8日)。将来の価値が筆者にはまだまだ感じられる企業だ。実際に株価が下落したとはいえ、現段階におけるAmazonによる出資の「評価損」は、未来コストの前倒し計上(まだまだ伸びる事業の確信のもとに前倒しで減損赤字にして待機)とも考えられる。


■高速道路インターチェンジ間の自動運転トラック輸送

話題が周辺に逸れた。電気自動車の赤字の話題から本題である「長距離トラックの自動運転」の話題に戻そう。

図1でお伝えしたAmazon Primeのトラックが溢れている「今」、現状のドライバーとその運転を通じた「配車の最適化」については、AmazonはすでにTeslaでもGoogleでも追いつけない壮大なシステムを構築している。

それならば、そろそろAmazonによる容易な「運転者へのドライブアシストの自動化」が次のステップになると想像できる(図3参照)。


図3:長距離トラック輸送がA地点(左上)の配送センターから
同じようなB地点配送センターまで高速道路を巡航する
だけなら自動運転で実現可能であるイメージ

MMMR92_3

出所)CNBCのYouTube動画(2019年4月14日)



高速道路インターチェンジ(IC)に位置する配送センター「A拠点」から、次のICの配送センター「拠点B」まで、図3左下のようなハイウエイ(高速道路)を10時間もぶっ通しで運転するだけならば、何らかのテクノロジーで支援出来ると素人でも考えうる。

たとえば、受け渡し拠点の配送センターでのラストマイルの引き継ぎ作業などは人間同士でおこなうとしても、その間の「退屈な10時間」の部分をマシンとシステムが代行可能だろう(どれほどドライバーの労働環境が改善されることだろう!)。

さらに「空車車両の現地への無人返却」や、「渋滞の予測と回避」などの自動化も可能なはずだ。現在の自動車メーカーによる「エンジンや電池の開発改良」よりも、Amazonが積み上げている「輸送トラックの走行を自動操作できるレベルの『運転自動化』のデータ」の方が、SDGsで叫ばれるエネルギー効率やタイヤ効率、さらには雇用主としての従業員の事故防止(米国では毎年50万件以上のトラック事故)などを含めて、効率がすぐに上げられそうだ(TuSimpleによると自称20%〜30%の向上-CNBC YouTube動画)。


TeslaAmazonが積み上げる一人称の重たい「命」のデータ

MAD MANレポートでトラックの自動運転を取り上げている背景は、「ものすごくめんどくさいこと=永遠と高速道路を見つめて運転しつづける物流の動脈を担うドライバーの動作」であり、その「トラックドライバーの命に関わる(守る)データの積み上げ」という重たい側のデータにある。なおかつ、「物流経済の血液の健康化」や、さらに「その供給ドライバー数が不足している(→サラサラ化)」、という意味合いでも価値があり、既存のビジネスモデルにおいてのデータの事業範囲で、これは日本でも起こりうる。

MAD MANとしては、これに加えて「一人称のデータ」分野を補足しよう。ドライバーの生命や生き様が運転席画面にて左右される一人称のデータ分野だ。そして、GoogleやFacebook、Teslaですら、まだまだ積み上げられていない「物流B2Bのドライバーに絞った重たい側のデータ」でもある(図4参照)。



図4:トラックの自動運転分野で今後データを積み上げようとする企業例
(左)Teslaの自動運転トラック「Semi」(右)Alphabet/Waymo の「VIA」

MMMR92_4

出所)左:Tesla・右:Waymo


■参考:長距離トラックのデータを積み上げようとする企業

◎大御所:Google、Tesla、トラック自動車製造のVolvoの事例

○次点:Amazonの触手が伸びている有力スタートアップ事例

その他の名前が知れた自動運転トラック事業のスタートアップ事例


■トラック自動運転の日本市場への応用

MAD MANレポート読者の皆さんとアンテナを上げたいのは、日本市場でとかくクルマの話題は「電気自動車」や「トヨタはいかに」の方向に関心が向いてしまいがちだ。「この日本の狭い路地裏をどうやって自動運転するんだよ」という日本だけをみた直感が先読みの基準になっていないか。

日本だけの基準を延長させようとするばかりに、市街地配送車や清掃車、農場のトラクターの最適化や、空港バスなどの自動運転化など「目に見えるところでテストしています」の雰囲気についつい意識が行きがちで、「動脈になる長距離トラック」の産業バックボーンへの投資が見えにくい。

これらのデカいトラックや目の前にある輸送網の自動化の方が、「ゼロから未来都市システムを我田引水で自作自演にて作る(例:Woven City)」よりも意外に近道だ、という話題の提供だった。

Amazon自身も、このディストリビューション網の「動脈」の資産化こそが、脱炭素やラストワンマイルの電気自動車の「静脈」よりも先回りして優先事項としているのが見える(図5参照)。



図5:長距離トラック輸送の自動化についてAmazonの中の「AWS」公式ブログで紹介している様子

スクリーンショット 2022-08-03 8.51.13

出所)AWS公式ブログ(2021年10月12日)



■トラック自動運転に対する日本の投資

日本のトラック製造業大手の「いすゞ自動車」、「日野自動車」、「三菱ふそう」などを調べてみても極めて成果が低い(すぐ来る明日の感じがしない)。「実証実験をしました」ばかりに見える。日本が目隠しをしている分野として・・・


続きはMAD MANレポートVol.92(有料購読)にて

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