Vol.93 「@コスメ+Amazon」は資本政策のお手本

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8月号の目次>

◎ テレビ放映のD2C化・収益化への手探りとその道のり

◎ セレブD2Cの価値は「インフルエンサー」から「投資者」への軸へ

◎「@コスメ+Amazon」は資本政策のお手本

◎ MAD MANが気になったコラムセレクション

 ・「百貨店店舗の売上が過去最高」とは

 ・ 現在の日本の人口と2024年

 ・ 個人情報を他者へ転送「同意」ボタン、ついに銀行口座にも

 ・ テレビ広告の買付配信「ノバセル」事業とそのやりくり

「@コスメ+Amazon」は資本政策のお手本




「笑うMAD MAN」とキテカン(起点観測)の新テーマを掲げた途端に、さらに笑うような記事が日本語メディアに踊っているので追加で解説する。「@アットコスメ+Amazon」の発表において、MAD MANレポート読者の関心が「オンラインAmazon=日本のコスメ進出」へとコピペ誘導されないように紐解く章だ。

結論として、アイスタイルが見せた「資本政策」のちょいと優れた姿勢について紹介する(キーワードとして「資本政策」が根幹にある)。


日本市場の「コスメ&オンライン」に世界資本のAmazonが参入するのか

「@コスメ+Amazon」の話題は大量にあふれているが、拝見した記事のなかから日経新聞の記事を代表例としよう。

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@コスメ、Amazonも引き寄せる口コミ経済圏
日本経済新聞社 2022816
出所:https://www.nikkei.com

<以下抜粋>
米アマゾン・ドット・コムが化粧品口コミサイト「@コスメ(アットコスメ)」を運営するアイスタイルと資本業務提携に踏み切る。世界的な巨大テック企業があえて時価総額200億円強の日本企業に手を伸ばしてまで欲したのは、アットコスメに集まる1800万件という国内最大級の化粧品の口コミ数。アットコスメとの協業で、競争が激しい化粧品販売で主導権を握りたい思惑がある。
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記事の冒頭のトーンには、MAD MANはムズムズ感だらけ(大衆はこんなのがお好きでしょと読ませる意図)なので、以下に紐解きと解説を続ける。

日経新聞の記事で気になる(ムズムズ)単語を羅列してみると、「化粧品」「国内最大級」「口コミ数」「協業」「競争が激しい」「主導権」「握りたい」が目に付いた。これらの単語に釣られてつなぎ合わせると、あたかもAmazonが化粧品業界へ向けて「売上向上」や「販売促進」を「マーケットシェアの獲得」に向けて進出(出資)という文脈で見えてしまうかもしれない(笑)。


200兆円企業のAmazonが日本市場で発表する次元

「笑うMAD MAN」の解説として、今回の発表のAmazon側のアイスタイルへの出資判断の意図(動機)は、記事で紹介されているような「リアル店舗(売場そのもの)」や「日本市場拡大」などは、ほぼ無関係と思える(MAD MAN流の少々荒っぽい語調のため「そういう目線もあるかも…」程度でお付き合いください)。

日経新聞の記者が記事後半にギュッと詰めて記載した(伝えたかった)ポイントを残していたが、下記の「資本(業務)提携」の部分こそ、価値のある内容として読み取りたい。

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(中略)
アマゾンは9月6日、アイスタイルが発行する25億円の新株予約権付社債(転換社債=CB)と、115億円の新株予約権を引き受ける。株式に転換すれば36.95%を保有する筆頭株主になる。
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「米国Amazon(時価総額約200兆円級の企業)」が世界で伸びる市場のアフリカ、南米、中東、アジアなどの数多ある市場と対面しているなかで、わざわざ伸びしろの少ない「成熟・縮小の日本市場」のなかの、さらに小さな「豆粒」サイズの、そのうえ「ていたらく経営のアイスタイル」に対して、やむなく(追加)出資を乗り出した(お付き合いした)という、矛盾だらけの背景が読み取れる。

改めて考えてみてほしい、Amazonは「200兆円」価値の企業だ。わざわざ極東地域の日本市場にて特に成長テクノロジー投資もしていない事業の「0.05兆円企業(約450億円)」の株式の40%分(180億円程)のディールに、Amazon様が本社決済(リリース原稿を作成して)を発表してまで乗り出すこと自体に「ものすごく」違和感を感じる。

だからこそ「DDS(で、どう、する)」。「これは何かあるぞ!」と考えるヒントになる材料があろうと以下に並べてみた。


■偶然に急に発生するような次元ではない

本章で取り上げるアイスタイルへのAmazon本社の出資決済は、明らかに「豆粒程度」の微細な案件だ。米国Amazon本体の「巨人の歩行」にとっては、目にも入らないくらいの「小鳥の歩幅」程度の案件である。

「おらの村(日本)にAmazonさんがやってきた」とばかりに、「その戦略は何だ」と考えたい村人(日経記事の読者)の立場は理解できるが、Amazonのグローバル事業を俯瞰して見た時に「一体何があったんだろう」の思考で進めてみよう。

MAD MANが想像する「笑える」発表の背景

おそらく下記のような配慮をクリアした上で、大きなイベント縁組として無事に成立した段階で「ニュース」として発せられる。「アイスタイルとAmazonが」との発表になって、はじめて世の中への話題としてデビューし、世の中側は「後付けされた理由の記事」に釣られて、ディスカッションがボソボソと生まれるという順番だ。

  1. このディールのシナリオを仕掛ける(説得する)仲買人が存在している(キーマン=リターンを追う巨大投資家の存在、社内のCクラスが存在する)
  2. きっと仕込みの年月をかけて(複利=IRRのリターンを期待する)を結びつける経済合理的な算段と、合法的な「仕掛け出資」の苦労があった

(笑:オリンピック商談とは少し雰囲気が違うので念の為)

MAD MANレポート読者への話題としては、Amazon規模の投資ならば、その意図や仕込みの経緯の過程をあらためて注視して理解するための教科書になる。巨大な資本(資金)が動いているのだから、「理由・背景」が紐づいているよねという思考を巡らす素養こそが、あなたの次の「出資を募れる」、「魅力ある事業主」への伸展につながる。

と、少し脱線したが、「この@コスメ+Amazonの本流はどこだっけ」と源流に戻ってみると、やはり表には見えにくい背景があった。

Amazonは幾らの現金を持ち出して幾らの資産を手に入れたのか

日経記事の「コアの部分」をもう一度おさらいしてみよう、下記の部分こそが米国Amazonの取引の概要である。以下、財務的な正しい説明よりも、ざっくりとした分かりやすさを優先してご紹介する。

アイスタイルが発行する25億円の新株予約権付社債(転換社債=CB)と、115億円の新株予約権を引き受ける。

今回、Amazonが持ち出した投資現金(支払ったお金)は、(ほんの)25億円+115億円=140億円(140億円はAmazonにとって小鳥さん)。

これは、25億円分の出資を支払って、その引き換えに「社債どうぞ」を手に入れるディール(値が上がった時の新株を安値の現在価格で買う予約権付きCB)と、115億円分を支払って、新株発行の際の予約権利(値が上がった時に使える利潤交換チケット)をもらった(引き受けた=買った)。この「権利の獲得」が「コスメの口コミ口座」の獲得での事業貢献よりも、もっと大きな期待効果がある。

たとえば、現在のアイスタイルの事業をAmazonプラットフォームで成長させることで、株価が将来「2倍」になれば、Amazon側は115億円分の権利チケットが(2倍の)230億円分の価値を持つ株と交換できる(仮に3倍ならば345億円分)。

ていたらくなアイスタイルの事業(図1の赤字が戻らない経営)が、Amazonプラットフォームの後押しで「爆発的に」伸びる可能性があると誰もが期待できる(アイスタイルの社員すらも)。Amazonのプラットフォームやクラウドの利用だけで、その成長の実現を目論むことができる算段があれば、140億円の先出しは悪くはない(爆発的に良い)ディールだ。

魅力的なのは、伸び幅(値上がり)の縦軸だけでなく、横軸(時間・期間)の短さだ。実行に移れば「半年程でV字回復ジャンプ」の成果がでるのは、容易に想像できる。「小口」の投資なので「ROI換算300%」くらいは期待できる範囲だ。

■超絶な経済価値ディールを後追いで理由を付けられるAmazon

ちょいと極端に言えば(極端ですよ!)、「コスメや口コミの口座」などのマーケティング上のシナリオは無関係に、まずは「資本ディールとして超絶かどうか」がAmazonの資本政策発表の(必須の)第一条件だ。

この条件が「超絶」であれば、その「後付け」にて「コスメや口コミのため」というAmazonとの親和性のある、見栄えのある理由を付ける「手札」はいくらでもある。まずは(超絶な)経済合理性が最初の判断。この判断において、アイスタイルのディールは成立している。

今やAmazonは、コスメ分野でも、医薬分野でも、さらには自動車分野であろうと保険分野であろうとも、多くの(どんな)産業の資本ディールが来ても「超絶」ディールだけを吟味して選べば、それがどんな分野であっても後付けで「理にかなう」と言わせしめる「手札の幅」が膨らんでいる(何でも投資イケる)。

今回のアイスタイルに対する強気の経済合理性を追いかけるディールに対して、「後付け」でストーリーやシナリオ(口コミユーザーを捉えて開拓)を付加できてしまえるのも、現在のAmazonの新しい事業価値(手法)である。よく目にする記事は、このAmazon側の後付けシナリオをそのまま読まされているだけだ。


■日本市場に甘んじるアイスタイルの経営

Amazonがディールに向かって持ち出す現金の矛先は、資産であるアイスタイルの(割安な)事業価値である。アイスタイルの事業価値が底値と伺える近年の経営状況が冒頭の図1だ。

アイスタイルの株価は2022年6月〜8月(発表前)は200円〜300円で推移していたが、今回の発表(22年8月15日)の「Amazonとの資本提携」の契約アナウンスだけで、その倍の600円にまでカンタンに登った(22年8月19日時点)。

Amazonのプラットフォームやシステムが、アイスタイルの事業に手ほどきをして狙えるのは、最低でも「史上最高値」の企業価値1,800円(2018年初頭)、いや楽にそれ以上の価値をつけることができるというのは計算済みだ。


■「あった!」の種明かし:目指す山の頂上は最初に決まっている

ここまで本章の話題をイントロにてお付き合いいただいた。結論の種明かし「そんな姿勢いいな」がここからだ。

このディールそのものは、2020年以前からアイスタイル側へ「Amazonへの仲人大手の外資の資本があらかじめ注入完了」の準備がされた上であることも見ておこう。アイスタイルの経営者側も実はその心得がある経営陣とも思える。

アイスタイルの経営にとって(結果的に)苦しい時期だった外出自粛期に、共に耐えてくれた外資が「つがい」となり、さらに「仲人」として存在し、資金を持続させる「命綱」となり、底値で耐えたあかつきの「9回裏、満塁の場面で登場した、4番バッター米国Amazon登場!」の出資(両替)である。

まるで(ほんとうの)結婚のお見合い縁組での「ご両家の手順」のようなひな壇の準備であり、この資本ディール(すでにエグジットに近い)にて経済合理的に入り口に戻れたのは、あっぱれ!と見える(図2参照)。


図1:アイスタイル(@コスメ)の過去5年の決算推移。赤字決算がまだ戻らない

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出所)アイスタイル決算説明資料より筆者作成



Baillie Gifford Company(英)とは

Baillie Gifford」は、1908年(明治41年!)から続く「イギリス、スコットランド系の投資・資産運用会社」で、ニューヨークにもオフィスを持つ投資事業主だ。(BaillieGifford.com

「デカイ由緒ある欧米系(英国系)の投資ファンドであるBaillie Gifford」の矛先とは、一般的には「Amazon」や「Tesla」、「SpaceX」への投資のような次元だ。(余談:イギリス系の由緒ある系列とは「ロスチャイルド系」とも深い関わりが当然ながら存在する)

その巨大資本Baillie Gifford+Amazonが日本の(小鳥の歩幅ほどの)アイスタイルにも、チョロッと出資している「窓口」があったり、「きっかけ」を作ったご縁とは、どのような経緯(期待)や行動だったのだろうと想像しみてみよう。


図2:アイスタイル(@コスメ)が申告している「Baillie Gifford」による株式保有数

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出所)アイスタイルの有価証券報告書(2021年9月)P.41



この連想で、Amazonに特上としてアイスタイルの株式を結びつけた(自社が持っている株の価値が上がる)人物やシナリオのワクワクが見えてくる。この縁組を成立させたのが三井系の企業(三井住友アセット+日興アセット)だと・・・


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