Vol.135 「まいばす×プロセスセンター」が描く地方リテールの最適解

Vol. 134 Jan. 2025-6


<2月号の目次>

◎ 「まいばす×プロセスセンター」が描く地方リテールの最適解

◎ Walmartが仕掛ける「高所得層シフト」と利益率を支える二大エンジン

◎ デロイト社員18万人が捨てる階級とAI時代のスキル通貨

◎ 電通Gが断行した“負の遺産”の損切りとAIへの警鐘

◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地



「まいばす×プロセスセンター」が描く地方リテールの最適解

 

■札幌市内に45店舗を展開する「まいばすけっと」の衝撃

イオンが展開する都市型小型スーパー「まいばすけっと」は、首都圏における圧倒的な利便性でお馴染みだ。一方、同社は北海道においても出店を拡大させており、札幌駅からわずか2km圏内に20店舗(図1参照)、市内全域では計45店舗を展開しているのはご存知だろうか。

図1:札幌駅周辺における「まいばすけっと」の出店状況(半径約2km圏内)

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出所)Google Map



札幌市におけるこの出店密度は、首都圏の千葉県全域(
57店舗)に匹敵する極めて高い水準だ。

・まいばすけっと北海道・札幌市(人口196万人):45店舗
・まいばすけっと千葉県(人口627万人):57店舗2026223日時点)

※千葉、市川、船橋、松戸、浦安、習志野を含む主要都市

首都圏で展開される通称「まいばす」の成長は、これまで「都心部に特化したドミナント戦略」の成功例として分析されることが多かった。その代表的な視点として、以下のような考察が挙げられる。

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「まいばすけっと」が都心に増え続けるワケ イオンが仕掛けた“ちょっと変なスーパー”の正体
202622日 IT mediaビジネスオンライン
出所: https://www.itmedia.co.jp/business/

<以下抜粋>
首都圏の小型スーパーといえば、昨年西友を買収し、その既存店を活用して西友のバックヤードから生鮮や総菜を供給するサテライト方式で、小型店トライアルGOを展開し始めたトライアルがいる。

しかし、その規模やインフラ基盤はイオンには遠く及ばない。まいばすの成功から、まだ中心部にフロンティアがあることも分かったため、今後首都圏に小型スーパーを投入するスーパーやコンビニ大手はあるだろう。しかし、先行するイオンに追い付くのには、相当な時間がかかりそうだ。今後さらに激化すると予想される首都圏の争奪戦で、イオンの覇権を確立できるか否かは、このまいばすにかかっているのである。
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Amazonの戦略転換:Whole Foods Marketを核とした実店舗型宅配モデルへ

Amazonは、自社ブランドの食品スーパー「Amazon Fresh」およびコンビニエンスストア「Amazon Go」の実店舗の大半を、2026年1月に閉鎖すると発表した。

かつて「Just Walk Out(レジなし決済)」や「生体認証」といった先端技術は大きな注目を集めたが、食品小売が根本的に抱える「低い利益率×高頻度多売」という構造的課題は解消できなかった。膨大な設備投資に対し、期待された来店頻度や客単価の向上が伴わず、経済合理性を維持できなかった。結果として、これらの取り組みは先端技術の「実証実験」のような取り組みにとどまった。

この経験を経て、Amazon202511月、傘下の高級スーパー「Whole Foods Market」のブランド力を軸とした、店舗併設型の生鮮品宅配モデルへの転換を鮮明にしている。新たな物流システムとして、マイクロ・フルフィルメント・センター(MFC)を活用し、実店舗からのオンライン注文をロボティクス配送で処理する実験店舗の1号店を公開した。

自社の高速物流網、Amazon Primeを通じた強固な顧客接点、そしてWhole Foods Marketの品揃えを消費者の冷蔵庫までシームレスに接続するこの構想は、オンラインとオフラインを融合させた、一つの最強モデルに違いない。


■生鮮物流の難所「コールドチェーン」の経済的代償

Amazonが探索する「ロボット倉庫+店舗+宅配」の統合モデルは、実現まで相応の時間を要した印象がある。その背景には、生鮮品特有の難しさがある。低利益率の商品に対し、高額な自動化設備と配送コストをどう吸収するかという構造的な矛盾だ。

生鮮品宅配において「圧倒的な鮮度」と「厳格な時間指定」を両立させるには、極めて高コストなコールドチェーン(低温物流網)の維持が不可欠となる。

    • 保管・電力:巨大な冷蔵ロボット倉庫内の適温維持と、そのための安定的な電力確保。
    • 配送インフラ:数千台規模の冷蔵トラックによる品質維持と、衛生・品質管理の責任を負う宅配ドライバーの高度な運用。
    • ラストワンマイル:顧客の在宅時間や冷蔵環境に合わせた、個別配送体制の構築。

温度管理された専用トラックは、往路こそ価値を生むが、復路が空荷となる「片道輸送」の非効率が常態化しやすい。さらに、再配達を最小化するための仕組みづくりにも継続的な投資が必要だ。

これらの莫大なコストを、卵や野菜、肉や魚といった低単価な生鮮品の利益だけで回収できるのか。Amazonをもってしても、この分野における明確な採算モデル、つまり“紙芝居と飴玉”が描き切れていないと考えてよいだろう。


■イオンの優位性「まいばす」×Green Beans」の相乗効果

こうした文脈において、イオンの「まいばすけっと」による高密度な店舗戦略と、首都圏で先行する生鮮品宅配「Green Beans」を組み合わせた後発モデルは、一歩先を行く優位性を備えているようにみえる。

同社の構想は、単なる集約型倉庫からの一斉配送ではなく、既存の店舗網を「中継ハブ・スポーク」として機能させる点にある。生活圏内に密集する「まいばすけっと」を配送ネットワークの結節点と位置付けることで、ラストワンマイルの効率化と在庫回転の最適化を同時に図る余地が生まれるためだ。

先行するAmazonWhole Foodsに対し、イオンは既存の店舗資産を物流網の結節点として即座に活かせる点で、戦略的に極めて優位なポジションにあるといえる(図2参照。※なお、これは筆者独自の流通モデル分析に基づく想定である)。


図2:生鮮品物流モデルの比較:集約型倉庫からの直接配送(左)と店舗ハブ活用型(右)

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出所)Google Geminiによる生成に基づき筆者作成



■収益構造の明暗:堅調な店舗事業と赤字の宅配事業

現在、イオンの都市型小型店「まいばすけっと」事業は堅調な成長軌道にある。一方、最新鋭の自動ロボット倉庫を主軸とする生鮮宅配事業「Green Beans」は、依然として多額の先行投資に伴う赤字を計上している。

2012年に独立した「まいばすけっと株式会社」は、2025年末時点で1,290店舗を運営する規模にまで成長した(図3参照)。まいばすけっと事業は、イオングループの物販部門のSM(スーパーマーケット)事業セグメントであり、黒字を押し上げる大きい柱に育っている。

SM事業は2026年2月期末推定で約150億円規模の黒字が予想される。対照的にイオングループの主要物販事業であったGMS(総合スーパー)事業は2026年2月期末推定で約150億円の赤字が見込まれるだけに主役逆転の様子もうかがえる。さらにイオングループ全体では、イオンモール事業の賃貸部門と、金融部門、国際部門(中国を含む)が大きなセグメントとして成長している。

 

図3:まいばすけっと株式会社 主要財務指標の推移(2018年〜2025年)

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出所)まいばすけっと株式会社 決算公告(第14期:2025年5月28日付)より筆者

 

図4:イオンネクスト株式会社(Green Beans)主要財務指標の推移(2018〜2025年)

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出所)イオンネクスト株式会社 決算公告(第6期:2025年6月6日付)より筆者作成

 

■赤字幅が拡大する「Green Beans」事業の現状

新規事業の立ち上げ期において、先行投資による赤字は織り込み済みである。しかし、2019年に設立された「Green Beans(イオンネクスト株式会社)」は、設立から6年連続で赤字幅が拡大する極めて厳しい局面に立たされている(図4参照)。

「まいばすけっと」が近隣住民の来店によって着実に積み上げた利益を、宅配型の「Green Beans」による多額の損失が相殺しているのが現状だ(図5参照)。両事業の営業利益を合算すると、

宅配事業の赤字が店舗事業の収益を上回り、部門全体の利益を大きく毀損している構造がわかる。

 

図5:イオンSM事業セグメントにおける営業利益比較(まいばすけっとvsイオンネクスト)

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出所)図3および図4のデータを基に筆者作成

 

■巨大ロボティクス倉庫:自社開発か外部技術依存か

イオンが「Green Beans」に採用したイギリスのOcado社製システムは、AmazonKIVA Systemsを買収し、ロボティクス技術を内製化した動きとは対照的な「外部依存型」のモデルである(企業規模に起因する買収・開発余力の差はここでは論じない)。

Ocado社はロボティクス倉庫をパッケージとして世界の大手小売に提供してきたが、近年では契約打ち切りが相次いでいる。高額な設備投資と運用コストに対し、食品小売特有の低利益率構造が重くのしかかり、収益改善に直結しないケースが多発しているためだ。その典型的な事例が、戦略の見直しを・・・

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