Vol.137 Allbirdsの「死」とNewBirds AIの「転生」

表紙カバー


<4月号の目次>

◎ Allbirdsの「死」とNewBird AIの「転生」

◎ 米HR業界を揺さぶる「EaaS」の天文学的マルチプル

◎ キッズ向け都市型リアル店舗の収益化市場

◎【コラム】「Tokenmaxxing」が変えるAIコストの新常識

◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地



Allbirdsの「死」とNewBird AIの「転生」

 

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時価総額6300億円だったベンチャーが、たった61億円で身売り…人気スニーカーブランド「オールバーズ」がIPOの熱狂後にたどった転落
2026年4月13日 Business Insider Japan
出所:https://www.businessinsider.jp/article/

<以下抜粋>
・オールバーズは2015年に創業し、ブランドの象徴となったウール製スニーカーで瞬く間にスターダムへと駆け上がった。
・2021年11月に米ナスダックに上場。企業価値は40億ドル(6340億円)にまで膨れ上がった華々しいデビューを飾った。
・しかし、同社は2026年3月、ファッション雑貨中堅アメリカン・エクスチェンジ・グループAmerican Exchange Group(AXNY Group)によって、わずか3900万ドル(61億8150万円)で買収されることを発表した。
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スニーカーのAllbirds、AIインフラ事業転換で株価5倍超に。「NewBird AI」に改称へ
2026年4月16日 Yahoo!ニュース
出所:https://news.yahoo.co.jp/articles/

スニーカーブランドのオールバーズ(Allbirds)が資本調達を実施し、AIコンピューティングインフラ事業へ事業転換すると発表したことを受け、同社の株価は4月15日に5倍以上に急騰した。

機関投資家との間で5,000万ドル(約79億4,325万円)の転換社債型資金調達契約を実行すると発表した。調達資金はGPU(画像処理装置)の取得に充てる計画だ。
社名を「ニューバードAI(NewBird AI)」へ変更し、今後はクラウドコンピューティング容量やAIサービスの提供へと事業の重心を移していく方針も示した。
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■「靴屋」がAI企業へピボットする、ナラティブの狂宴

時価総額6,300億円を誇ったDNVB(デジタルネイティブ・バーティカルブランド)の旗手「Allbirds」が、わずか61億円で身売りされる。この衝撃的な転落劇の裏で、彼らが繰り出した“次の一手”が市場を騒がせている。AIチップやGPU-as-a-Service(GPUaaS)を手掛ける「NewBird AI」への電撃的な事業転換(ピボット)だ。

この動きは、典型的な「ナラティブ取引」の産物といえそうだ。ナラティブ取引は、実態を伴うビジネスではなく、投資家が好む「物語・信念(ナラティブ)」を市場に投げ込み、その熱狂を利用して資産価値を強引に跳ね上げる手法だ。かつて、アイスティーの会社が「Long Blockchain」へと社名変更し、価格を釣り上げた挙句に上場廃止となった「Long Island Iced Tea Corp」の悪夢を思い起こさせる。

このような強引な業態転換は日本企業では稀であり、米国においても決して手放しで歓迎されるケーススタディではない。そもそも「靴屋」が自社のノウハウや既存資産を一切活用せずに、新規の資金調達のみでAI企業へと転身できるのであれば、他のあらゆるメーカーや小売企業でも同様の戦略が成立してしまうことになる。

同じDNVB出身の事例として、髭剃りサブスクのDollar Shave Club(Unileverによる買収後、PEファンドへ再売却)や、メンズアパレルのBonobos(Walmartへ売却)、マットレスのCasper(IPO後、わずか2年で上場廃止)でも、同様の選択が可能だったのではないか。 

 

図1:Allbirdsの上場来の株価推移



出所)Reuters(2026年4月15日) 

 

加えて、現在のAIインフラ市場は、Amazon、Microsoft、Oracleといったハイパースケーラー(超巨大企業)に加え、「CoreWeave」や「Nebius」などの専業プレイヤーが数百億ドル規模の設備投資を競う、極めて過酷なレッドオーシャンである。長期の電力契約や高度な冷却技術、緻密な運用能力が求められるこの戦場で、競合の100分の1にも満たない、たかだか5,000万ドル(まさに「バケツの一滴」)の資金しか持たないNewBird AIが、独自の競争優位性を確立できる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

 

■一度も黒字化なく、大赤字の連続

Allbirdsの2025年通期決算は、売上約230億円(1.52億ドル、1ドル=150円換算、以下同)、純損失は約115億円(0.77億ドル)だ。売上の約50%に相当する巨額損失を計上しており、まさに「売れば売るほど赤字が膨らむ」構造的欠陥を露呈している。図1が示す通り、IPO以降の株価は一度も上昇の兆しを見せず、低迷を続けてきた。

 

■「思いつき」を排した周到なるピボット戦略一度も黒字化なく、大赤字の連続

だが、低迷する本業を切り離し、AIという「次の賭け」へと転身させるこの構図は、決して単なる思いつきではない。日本企業にとっても、今後発生し得る先行事例として極めて示唆に富むものである。その用意周到さを、以下の3点から読み解こう(図2参照)

 

図2:Allbirdsによる「カウンターパンチ」型ディールの構造


出所)筆者作成

 

売却・調達・事業転換の同時発表 
Allbirdsの特異性は、2026年4月15日に「靴事業の売却」「転換社債による5,000万ドルの調達」「AIインフラ事業への転換」を同日に一括発表した点である。これは周到に設計された、いわば「秩序ある延命装置」の構造だ。

さらに、SECの上場ファイリングでは、5月に予定される株主総会議案には、表面的な事業転換 (1)〜(3) に加え、「(4) 解散計画」および「(5) 休会」が含まれている。メディアが報じているのは (1)~(3) の表面部分で、肝心な (4) (5) を見逃している。取締役会はAI事業への転換を謳いつつ、失敗時には「12ヶ月以内に清算する」という出口戦略の承認を、事前に株主から得ているのだ。

 <5月の株主総会における5本の議案>
(1) 靴事業売却
(2) 転換社債5,000万ドル
(3) 社名変更
(4) 解散計画
(5) 休会
 

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参考)SECファイリングからの抜粋(Google自動翻訳)
会社の清算および解散(以下「解散」という)および解散計画(随時修正される場合があり、以下「解散計画」という)を承認する。承認された場合、会社は解散計画に記載されているとおりに解散および清算を行うか、または解散を放棄する(以下「解散提案」という)ことができる。
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② 投資家を三重に守る「担保付シニア」 
今回発行される転換社債は、一般的なものではなく、「担保付シニア(Senior Secured Convertible Notes)」である。投資家は(a)担保権、(b)債務弁済の最優先順位、(c)株価急騰時の転換権、という三重の防御策で守られている。これは株価が「AIナラティブ」で高止まりすれば、投資家に大きな利益をもたらし得る設計だ。

③ 意図的に拡張された「事業定義」 
新事業の定款名称は、「Electronics Infrastructure Business」とされた。プレス向けには「AI compute infrastructure」と表現されるが、法的にはエレクトロニクス領域に位置付けられ、対象を「AI, machine learning or other needs of potential future customers」と規定。これにより、量子計算やHPC、マイニングなど、どこへでも転べる「曖昧さという名の弾力性」を持たせている。また、環境保全を掲げた「B-Corp」の看板もひっそりと取り下げられた。

これは「靴屋の成功物語」と捉えるよりも、「AI事業を志向する投資家が、低コストで上場枠という“殻”を買った」と見るのが ・・・

 

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