Vol.134 鉄道グリッドという埋蔵資産──日本の変電所ネットワークがAIを支える

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<1月号の目次>

◎ フィジカルAIが切り拓く「Walmart×Alphabet」の次世代コマース構想(前編・後編)

◎ 「AI電力パラドックス」GPUの進化を止める送電・変電の壁

◎ 鉄道グリッドという埋蔵資産──日本の変電所ネットワークがAIを支える

◎ "フィジカルAIの勝者は?"物流・医療で進む実装と囲い込み

◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地



鉄道グリッドという埋蔵資産──日本の変電所ネットワークがAIを支える

 

前章では、AI機能の向上やAIデータセンターの増設・拡大・活用事業の真の増強が、日本の事業主にとっても「他人事ではない優先事項」であることを紹介した。

本章では、身近な日本の鉄道グループ(JR・公営・私鉄など)の電力設備が、今(明日!)求められているAIデータセンターと極めて高い親和性があることを伝える。

「①電力調達・利用実績、②送電・変電施設保有、③広大な土地、④付帯施設・通信、⑤支える人的技術者」の5要素をすべて自前で完結できる鉄道インフラは、世界的にも稀有な存在である。この既存の鉄道インフラ網は、日本独自の分散型AIコンピューティング基盤になり得る潜在能力を秘めている。

電化鉄道のインフラという資産は、米国ではほぼ存在せず、この価値自体も認識していないため、米国発の先端情報として日本に伝わってくることはない分野だ。日本がすでに最高峰であるため、国内ではその価値に気づきにくい。

日本の鉄道会社が自営の発電所や送電網、変電所を保有している点は、世界的にも特異である。加えて、これらのインフラを支える技術的な保全体制や人員、ノウハウが長年にわたり蓄積されている。
D2Cの多くは赤字」「新興系D2Cの9割が失敗」──こうしたネガティブな論調を目にする頻度は、確かに増えている。しかし実態を見ると、外出自粛という特需が剥落した2023年頃を境に、D2C市場は一律に不調へ向かったのではなく、むしろ明確な“二極化フェーズ”へ移行したと捉えるほうが正確だ。

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なぜSTPで誤りを犯すのか マーケティングフレームワークの功罪
2025年5月30日 日経XTREND
出所:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00819/00036/
<以下抜粋>
自社の事業を「鉄道」という製品ではなく、「輸送する」という価値で捉えていれば、技術革新を取り入れながら輸送という価値を提供できる製品を、自動車や航空機、さらには電話といった製品カテゴリーに事業を発展させ続け、顧客を逃すことはなかったであろう。
『米国の鉄道事業が衰退したのは自らの事業を鉄道事業と定義したから』
米国の経済学者でハーバード・ビジネス・スクールの教授;セオドア・レビット氏が、1960年に発表した論文「マーケティング近視眼」の引用
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この既存の概念の外に広がる可能性の示唆は、まさに日本の事業にも当てはまろうとしている。「輸送する」という概念が、人ではなくデータとなり、単なるデータ転送機能にとどまらず、地域社会において新たなエネルギーを「増産する」仕組みとなり得る。

 

■米国の鉄道網の電化の現状

 

図1:米国の99%の鉄道が「電化」ではなくディーゼルで走っている様子


出所)Forbes(2023年11月29日)

 

米国の鉄道網は総延長で約22万kmと、日本の約10倍の規模を誇る。しかしその電化率は1%未満にとどまり、ディーゼル機関車がインフラの中心だ。これに対し、日本の電化率は世界最高水準の約8割に達する(図1・2参照)。

 

図2:米国の99%の鉄道が「電化」ではなくディーゼルで走っている様子



出所)Electloiq.co

 

米国の広大な路線網には、設置が容易で低コストな光ファイバー(通信)ケーブルが敷設されている。光ファイバーの敷設は、単にケーブルロールをコロコロ引くだけで、電力インフラに比べて設置コストが極めて安価だ。一方、鉄道用の電力送電網や変電所は都市部にすら存在しない。

電力インフラが未整備であるため、米国では「鉄道インフラを活用した分散型AIデータセンター」という発想自体が生まれない。こうした分野のノウハウが「米国の啓発事例」として日本に流入することはなく、「逆・ガラパゴス」的状況になっている。NYを含む東海岸の一部には地下鉄やアムトラックなどの「電鉄」が存在するが、設備の老朽化が進んでいるうえ、周波数も古く、AIデータセンターにはお荷物になる。

 

■増大するAIデータセンターと日本の鉄道網の相性の良さ

日本の鉄道網には、他国が羨むほどのAIインフラ資産が蓄積されている。「①電力調達・利用実績、②送電・変電施設保有、③広大土地、④付帯施設・通信、⑤支える人的技術者」の5要素が揃い、事業基盤としての条件を満たしている。

以下では、この5つの要素を順に紹介する。電気工学的な細かい検討事項はあるが、ここでは事業化に向けた大枠の可能性に焦点をあてて紹介しよう。

 

■①電力調達・利用実績:高電圧で地域へ安定購入(+自営発電)/②送電・変電施設保有:送電網+電力のパイプ(電力の「動脈」)

日本の鉄道における受電・変電システムは、AIデータセンターが求める「高電圧・高信頼性」に適合している。鉄道変電所は電力会社から「直結」の66kV〜154kVの特別高圧で受電しており(特高受電)、これは大規模なAIデータセンターが必要とする受電電圧と同じクラスだ(図3参照)。

既存の鉄道変電所の敷地付近、あるいは隣接する地下空間にAIデータセンターを併設すれば、新たに長距離の送電線を敷設するコストと時間を大幅に削減できる。これは、未来の莫大なAI用「新発電」まで時間を稼ぐ、即時に使えるインフラだ。

全国に点在する電鉄の変電所は1,800箇所以上にのぼり、私鉄沿線では5〜10kmごとに高圧電力を受電する送電網と変電所が備わっている(章末の図10参照)。

中規模(数十メガワット級)のAIデータセンターであれば、現行設備のままで十分対応可能であり、消費電力が数百メガワット級となる大規模なAIデータセンターを新設する場合であっても、鉄道会社の変電インフラは拡張可能な範囲である。

また、鉄道の電力消費とAIデータセンターの電力需要には補完関係がある可能性が大きい。鉄道はダイヤにより夜間のピーク・オフピークが明確だが、AIデータセンターの負荷は比較的一定で、ベースロードとして機能する。両者を同一インフラで供給できれば、鉄道の夜間の余剰電力をAIデータセンター向けに活用でき、電鉄会社として変電設備の通年稼働率を高められる。

 

図3:JR東日本の変電所設備・送電網設備の事例


出所)JR東日本 自営電力の概要 

 

AI電力の不足が指摘される中、実はその背後に「送電線」や「変電所(高圧からAIチップ向けへの降圧への変圧器)」が不足しているといった構造的な問題が潜んでおり、世界的な「見えない壁」だ。

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マスク氏、電力・変圧器供給に問題が生じる可能性があると発言
https://www.powerinfotoday.com/news-press-releases/musk-says-electricity-transformer-supplies-may-face-issues/
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いざ電力供給量を増やしても、それを「送れない」「変圧できない(送ってもデカ過ぎる)」といったボトルネックが未だ存在する。ところが、日本の電鉄沿線にはすでにあちこち(近所)に、変電所設備が細かく設置されていて、しかも稼働している。

AIデータセンターのチップ(GPU)は約0.7ボルトという極めて低い電圧で動作する。しかし、電力会社からAIデータセンターに直送パイプの電網(グリッド)を作ったとして、供給は数万〜数十万ボルトの超高圧電流(前出66kV〜154kVの特別高圧)であり、これを段階的にステップダウンしてAIチップが使えるレベルに変換するには、変電所と変圧器が不可欠となる(交流・直流の変換が変電所の鍵だが、ここでは説明を割愛する)。

変電所(変圧器)を新たに設置する場合、そのリードタイム(発注から納品までの期間)は、3〜5年を要するとされている。(前章 図4:「データセンターに必要な設備・資源の設置・調達の年度の目処」)

 

■【参考】JR東日本の自前の発電所(水力・火力)と送電網

自前の発電所と送電網を保有していることは、日本、特にJR特有の強みである。家庭や工場への影響を与えることなく、AIデータセンターに対して「独立電源」として電力供給が可能である。これはエネルギー安全保障の観点からもAI事業者にとって魅力的なはずだ。

JR東日本全体では、年間約57億kWhの電力を消費しており、その約6割を「自営の」火力・水力発電でまかなっている(図4・5参照)。

 

図4:JR東日本の「自営電力」は首都圏では8割以上をカバーしている



出所)JR東日本 自営電力の概要


図5:JR東日本の水力発電所(上段)、火力発電所(下段)



出所)JR東日本 自営電力の概要

 

■③広大な土地: 広い土地と冷却技術とその資産価値(インフラの「体」)

鉄道は河川沿いを走ることが多く、変電所も変圧器用の冷却設備に関する実績とノウハウを有している。この冷却技術は、水冷式AIサーバーにおける冷却水の確保に活用できる。また、AIデータセンターが発生させる排熱を駅ビルや周辺施設に供給する「熱融通」も、都市インフラの一部として機能する鉄道事業ならではの覚悟をもった投資である(図6参照)。

これらは、沿線地域の理解と協調につながっており、電力配分に対する懸念も生じにくい。鉄道会社が保有する自社敷地内にAIデータセンターを敷設・拡張(あるいは誘致)する場合・・・



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