Vol.111 【コラム】OpenAIが仕掛ける千兆円を超える巨額資金調達

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<2月号の目次>

◎ 米国ビジネスにおける成功のための暗黙の偶然

◎ Sony Honda MobilityのAI利用の「強靭な鍋底」を考える(前編)

◎ Sony Honda MobilityのAI利用の「強靭な鍋底」を考える(後編)

◎ 【コラム】OpenAIが仕掛ける千兆円を超える巨額資金調達



【コラム】OpenAIが仕掛ける千兆円を超える巨額資金調達

 

MAD MANレポート読者の皆さまから、ビジネスの視点で捉えた日本のトピックや記事を数十本共有いただき、双方向の会話で得られる気づきや知識を紹介している。本章では、「Sora」や「OpenAI」に関連する日本での露出記事が多数寄せられたため、AI投資の視点から一章丸ごと筆者からのフィードバック解説とした。

 

AIの「これができる」能力へ至る前のインフラ準備

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アルトマン氏、半導体業界再編に数兆ドル調達へ
202429日 THE WALL STREET JOURNAL
出所:https://jp.wsj.com/articles/sam-altman-seeks-trillions-of-dollars-to-reshape-business-of-chips-and-ai-fca877a9

<以下抜粋>
アルトマン氏は野心的なITイニシアチブの実現に向け資金を調達するため、アラブ首長国連邦(UAE)政府などの投資家らとすでに協議を実施。同イニシアチブは世界の半導体製造能力を拡大させ、AIを支える能力を強化することなどを狙ったもので、関係者の1人はプロジェクトのために、5兆~7兆ドル(約747兆~1045兆円)もの資金を確保する必要があると述べた。

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<読者からのコメント>

OpenAIの動画生成AI「Sora」が2024年2月15日に発表されて以来、驚異的な能力となっています。誰もがSoraであんなことができるなんて、発表以前までは予想していませんでした。でも、上記の記事で述べられているように700兆円〜1,000兆円もの資金が必要なのでしょうか。

<MAD MANの解説>

動画を出力できる生成AIのSoraの発表を、その約1週間前の2024年2月9日にOpenAIの資金調達に関する報道記事を関連づけて考察いただいた投稿に感謝したい。OpenAI社のSoraによって「未来はこんな事ができる/不要になる」の“脅威的”な可能性については、関心のある方々の知識にお任せしよう。

Open AIのChatGPT4自体に「Sora」について尋ねた結果:「高度なAI技術を駆使して新たな価値を提供するプロジェクトの一つです。事業面においては、独自のアーキテクチャと大量の計算資源を活用し、従来の動画生成モデルと一線を画す性能を示しています」との回答が得られた。

筆者の補足解説としては、OpenAIの「動力エネルギーの確保に向けた巨大なるチームづくり」を“強靭な鍋底”として構築するモノガタリの続編と捉えている。読者の頭の中で、点と点の情報が線で繋がる目線を期待しよう。

本章の前半では「巨額資金調達の主体者(OpenAI)」を紹介し、後半に「その巨額資金の出資者(協力者)」について分けて解説する。

 

OpenAIの巨額資金調達の下準備

巨額資金調達の話題に入る前提として、いまや世間は2023年11月のサム・アルトマン氏のOpenAI退任騒動について、なぜ発生したのかをすっかり忘れてしまっているようだ。あの騒動の背景には、巨額資金調達に関する透明性の欠如が火元にあったことを忘れていないか。

2024年の現在において「千兆円級の資金が必要になるぞ!」の騒ぎが湧き起こる前に、まずは足元を綺麗に掃除しておこうとしていたのが、あの2023年末の退任騒動である。

公式発表はされていないが、非営利法人であるOpen AI Inc.の理事会は、2022年末の組織では9人だった構成(OpenAI Inc. Form 990 p.7参照 ※2023年11月開示で現時点での最新公式書類)が、2024年の現在は暫定とはいえ、過去を一掃して3名にて運営しているようだ

現在の理事には元米国財務長官ラリー・サマーズ氏を含んでいる(巨大資金を扱うガバナンスのお目付け役)。一方で、OpenAI Inc.創業から2022年当時まで理事会における金庫番役はサム・アルトマン氏と歩調を同じくした理事だったのだが、静かに退任しているようだ。

 

■注目発表の後にいざ資金調達の桁上げ

巨大な資金調達の前段階として、企業や事業の未来価値が評価されて、そこから逆算された注入資本が捻出される。Soraの発表の2日後に、OpenAI LLC(前出の非営利法人の傘下で管理する営利側の法人)は企業価値の評価額が約13兆円(860億ドル、1ドル150円換算)であると見積もられた発表が続いた。

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オープンAIが従業員保有株売却を完了、企業価値860億ドルで
2024217日 Bloomberg
出所:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-02-17/S8ZH32T0AFB400

<以下抜粋>
米オープンAIは、株式公開買い付け(TOB)を通じた従業員による保有株売却を完了したと、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
TOBはオープンAIの評価額を世界のスタートアップで最大級の860億ドル(約129200億円)とした。ブルームバーグは先に、オープンAIが既存の従業員保有株を860億ドルの企業評価額で売り出す方向で交渉を進めており、この取引はベンチャーキャピタルのスライブ・キャピタルが率いると伝えていた。

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OpenAI社が満を持して発表したSora(試験的なAIアプリ)が、大衆の心を捉えるのは理解できる。Soraは実用化の目処もないままでの発表にもかかわらず、この時点で人気絶頂だ。

たとえば、2024年2月20日時点のSoraの発表状況は「最長16秒」の制限が構想段階であるとされており、さらに限定登録者だけに許される利用実験の段階だ。ほぼ世界のだれもが利用していないという状況、それでも世界中にトキメキを生み出した。

スタートアップ(未知の新規事業)は、このような興奮をどれだけ世に広めることができるかが、初期の価値を生みだす鍵となる。右肩上がりの期待値を作ることが、次なる資金調達に向けたバリュエーション(企業の価値評価)の向上につながる。

OpenAI Inc.は昨年からの足元のお掃除から右肩上がりへの下準備を進め、巨額資金調達までのホップ・ステップが1,000兆円級まで引き上げることに成功したと仮定しよう。現在のところ「世界史上」で最大の企業価値を誇るMicrosoftとAppleの二社を足しても800兆円級($3 Trillion級×2社)であり、この1,000兆円(7兆ドル)級の調達は、これまでの巨大な成長を遂げた二社の企業価値を凌駕する。

そして、Microsoftがこの件について特にコメントを発表していない理由についても、「それはどうしてなのか」という疑問のアンテナは持っておきたい。

 

1,000兆円の調達と発電エネルギー確保の動き

後半の話題は「巨額資金の出資者(協力者)」に焦点を当てる。その資金はAIアプリのSoraだけに投下されるはずもない。Soraで発表された「生成AI動画は技術的には未来のこんな世界が…」の役割紹介は、天文学的な資金調達に向けての「のろし上げ」や「背伸び」のための道具に過ぎない。

市場でワイワイと関心が高まれば、期待が膨らみ、資金調達の規模を引き上げられる。実は、その先にはもっと巨大な未来投資への展望が広がり、投資関心の意識が桁外れの高み(キャズム超え)へ向けられるはずだ。

後半の結論は、巨大資金の矛先であり、OpenAIが最初から構想している世界において必要な基盤である「巨大動力エネルギーの確保」だ。エネルギー視点はマスコミ報道では触れにくい話題だとして、MAD MANレポートではここに焦点を当てる。

数年越しとはいえ1,000兆円級という天文学的な資本調達は、「動画生成AI」や「プロンプトを必要とする言語モデル」と、直接的に連想されるAI開発費用だけに留まらない。チップやクラウドなどのAIを動かす「動力(インフラ)」の費用を予測しての万全なる着々とした積み上げだ。

蓄電・バッテリー・レアメタルのような補完・代替程度のエネルギーの次元ではなく、不安定で微弱な自然エネルギーでもなく、莫大なる電力をごっそり作り続けるための基盤の確保が第一にある。

「発電」の確保競争と考えるとどうだろうか。AIに必要な巨大で安定した電力を確保するための必勝法として、誰が(どの企業が、どの国が)基盤を保有しているのかを考えると、OpenAIによるSora発表の背景が明らかになる。

 

■現存する世界のエネルギーがあってのAI

ロシア・ウクライナ・中国などの世界情勢は一旦横に置き、今回の巨額資金調達のためにサム・アルトマン氏は2024年1月〜2月の間に産油国のUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビにて、シェイク・タフヌーン・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン氏(UAE大統領の弟で同国の安全保障トップ)など複数の人物と会談している(参照:WSJ 202429)。

OpenAIの声明は「半導体、エネルギー、データセンターに関するインフラと供給網の世界的な拡大について生産的な話し合いを行ってきた」である。このパワーゲームの延長で、ソフトバンクグループの孫正義CEOや、ファウンドリ最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の代表、サムスンの幹部らともベンチャー資金について話し合ったとされる。「石油とエネルギー」と単純連想せずとも、この会談は世界的な大きな資金力と政治を含めたチーム力を作るためだ・・・

 

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