Vol.133 【起点観測】D2Cの分岐点 ユニコープスと上昇転換組(前編)

Vol. 133 Dec. 2025


<12月号の目次>

◎ 【起点観測】D2Cの分岐点 ユニコープスと上昇転換組(前編)

◎ 【起点観測】D2Cの分岐点 ユニコープスと上昇転換組(後編)

◎ 企業がAI進化でシフトさせる人材投資先

◎ 良かれと掲げたESG・SDGsが経営リスクに転じる瞬間

◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地



【起点観測】D2Cの分岐点 ユニコープスと上昇転換組(前編)

 

「D2Cの多くは赤字」「新興系D2Cの9割が失敗」──こうしたネガティブな論調を目にする頻度は、確かに増えている。しかし実態を見ると、外出自粛という特需が剥落した2023年頃を境に、D2C市場は一律に不調へ向かったのではなく、むしろ明確な“二極化フェーズ”へ移行したと捉えるほうが正確だ。

MAD MANレポートでの起点観測(キテカン)として本章では、この流れを「下降低迷組」と「上昇転換組」に整理し、現在進行形で何が起きているのかを改めて確認していこう。

 

■ユニコープスの大量発生と株式併合の罠

 かつてユニコーン企業としてもてはやされたスタートアップの半数以上が、上場後に企業価値の90%以上を失い、「ユニコープス(死せるユニコーン)」へと変質している。 

とりわけ「Allbirds」「Rent the Runway」「Solo Brands」などは、株価が1ドルを下回り、NASDAQ/NYSEの上場基準に抵触した結果、1対20〜1対40という極端な株式併合(リバース・スプリット)で、形式上の株価を維持している。 

だがこれは、事業構造の改善ではなく、あくまで上場廃止を回避するための延命措置にすぎない。投資家視点では、出口の見えない価値毀損が長期化している状態だ。 

 

■D2Cは死んでいない ── 生き残る「上昇組」の事業転換

一方で、生き残っている企業群は、D2Cを「売上を立てるための万能モデル」としてではなく「顧客との直接的な関係を構築する起点」として再定義しつつある。卸売り(Wholesale)や実店舗を組み合わせ、規模と利益を同時に確保するオムニチャネル戦略へと進化している。

もはや「D2Cであること」自体に、評価軸としての特別な意味はない。D2Cは販売チャネルの一つに過ぎず、ビジネスの本質ではないという現実が、はっきり可視化された段階といえる。 

2025年以降の市場環境において“オンライン専業の純粋なD2C”がIPOで評価されるハードルは極めて高い。実店舗や卸売りを含めたハイブリッドな収益モデルを持つ企業のみが、持続的成長を前提に評価される時代へ完全に移行した。 

 

■D2Cの下降低迷組リスト

下降低迷組に共通する「単一の敗因」を、横串で断定することは難しい。業種別に「成功しやすい/しにくい」と分類する分析も散見されるが、個社単位で見ると必ずしも言い切れないケースが多いはずだ。たとえば、同じ配車アプリ業界でも、「Uberは勝ち組」であり、「Lyftは低迷組」に位置付けられる。この差は業種では説明できない。 

しかし、個別事例ではなく「集合」として俯瞰すれば、低迷と成功を分ける構造的な違いは見えてくるはずだ。そこで本章の前編では、下降低迷組に該当する企業群をリスト化した(図1参照)。 

 

図1:米国D2C事業の「下降低迷組」

出所)筆者集計 上場時価格から2025年12月時点 株価の欄の企業名は買収先 

 

なお、2023年5月号 Vol. 102で紹介した当時と比較し、さらに低迷が進行している企業は、薄桃の背景色で強調している。リストには読者にとって馴染みのあるブランドも複数含まれるだろう。(※図1の2・8・18・20・22・25は、マーケティング事業として身近な比較対象として組み込んでいる。)

参考として、図1に登場する主な企業について、事業解説(Gemini AIによる要約)を以下に抜粋しておこう。

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SmileDirectClub (上場廃止・破産)
セクター:遠隔歯科矯正
日本でも「歯医者に行かない歯科矯正」の価格破壊モデルとして話題となった。

<詳細>歯科医師会や規制当局との法廷闘争、および顧客からの安全性に関するクレーム対応に追われ、莫大な現金を燃焼させた。医療という「重たいデータ」規制産業におけるD2Cモデルの限界を露呈させた。

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Casper Sleep (非公開化)
セクター:寝具・マットレス
マットレス・イン・ア・ボックス」という概念を広めた企業として知られる。

<結末>上場からわずか2年足らずの2022年初頭、投資会社Durational Capital Managementによって買収され、非公開化された。
<詳細>マットレスは数年に一度しか購入しない耐久消費財であり、サブスクリプションのような継続的な収益が見込めない。常に新規顧客を獲得し続けなければならない焼畑農業的なマーケティング競争に疲弊し、公開市場での成長ストーリーを描けなくなった。

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④ 
Blue Apron (買収)
セクター:ミールキット
ミールキット市場の先駆者として、Oisixなどとの対比で語られることが多い。

<詳細>食材の廃棄ロス、配送コスト、そして高い解約率という「三重苦」を克服できなかった。1,800ドルの企業価値があったものが13ドルになったという事実は、初期投資家にとって壊滅的な損失をもたらし、2017年のIPO以来、Blue ApronはD2Cの苦難の象徴そのものだった。

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Solo Brands (NYSE: SBDS) 騰落率: −99%
セクター:アウトドア
日本のキャンプブームにおいて、煙の出ない焚き火台「Solo Stove」はヒット商品。

<詳細>外出自粛規制中のアウトドア特需の反動減が直撃した。一度購入すれば数年は使える耐久財であるため、リピート購入が起きにくい弱点がある。

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Torrid (NYSE: CURV) 騰落率: −95%
セクター:プラスサイズアパレル
日本では展開が少ないが、北米市場の多様性を示す事例として知られる。

<詳細>D2Cというよりは、モールベースの小売業としての側面が強く、実店舗の客足鈍化と負債の重荷に苦しんでいる。

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BarkBox (The Original BARK Company)(NYSE: BARK) 騰落率: −95%
セクター:ペット用品サブスクリプション
日本では展開が少ないが、北米市場の多様性を示す事例として知られる。

<詳細>株価が1ドルを割り込んでおり(ペニーストック化)、上場廃止の警告を受ける水準にあ
る。おもちゃやオヤツのサブスクリプションは、生活必需品であるペットフード(Chewyが扱う領域)に比べて解約されやすく、不況の影響を強く受けた。

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Olaplex (NASDAQ: OLPX) 騰落率: −94%
セクター:プレミアム・ヘアケア
日本の美容感度の高い層に絶大な人気を誇り、ロフトやプラザ、高級サロンで広く販売されている。

<詳細>特許技術による「結合修復」を売りに急成長したが、競合他社(K18など)の台頭と、「dupe(安価な模倣品)」文化の広がりに苦しんでいる。ブランドのプレミアム性が急速に失われた事例だ。

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⑩ A.K.A. Brands (NYSE: AKA) 騰落率: −90%
セクター:ファッションブランド・プラットフォーム傘下の「Princess Polly」などが日本でのZ世代に知られる。

<詳細>複数のD2Cブランドを束ねる「ハウス・オブ・ブランズ」モデルを目指したが、サプライチェーンの複雑化と流行の移り変わりの速さに対応しきれず、相乗効果を生み出せてない。

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Brilliant Earth  (NASDAQ: BRLT) 騰落率: −89%
セクター:ジュエリー(エシカルダイヤモンド)
日本での知名度があり、エシカル消費の文脈で紹介されることが多い。

<詳細>ラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)の価格急落と、高級品市場の冷え込みのダブルパンチを受けた。

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⑫ The Honest Company (NASDAQ: HNST) 騰落率: −88%
セクター:ベビー・ビューティー用品
ジェシカ・アルバ創業のブランドとして知名度が高い。

<詳細>「クリーン」「ナチュラル」という価値提案が、P&Gやユニリーバなどの大手競合に模倣され、差別化が困難になった。マスマーケット向けの価格競争に巻き込まれている。

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Sweetgreen (NYSE: SG) 騰落率: −86%
セクター:サラダ専門店
日本でも「CRISP SALAD WORKS」など、Sweetgreenをモデルにしたカスタム・サラダ店が増加している。

<詳細>都市部のオフィスワーカーを主要ターゲットとしていたため、リモートワークの定着によるランチ需要の減少が直撃した。現在は「Infinite Kitchen」と呼ばれる自動調理ロボットの導入で利益率改善を図っている。

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Poshmark (買収により上場廃止)
セクター:ソーシャルコマース(古着)
2023年1月、LINEの親会社である韓国の「NAVER」によって買収された。これにより、NAVERは日本(ヴィンテージシティ等)、
韓国(KREAM)、欧州(Vestiaire Collective)、北米(Poshmark)をつなぐグローバルC2Cネットワークを構築しようとしている。

<詳細>上場企業としては株主価値を毀損したが、NAVERの傘下に入ったことで、グローバルなデータ活用とAI技術の恩恵を受ける新たなフェーズに入っている。

 


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