<7月号の目次>
◎ ポストCookie時代にOracleが示した重要なシグナル
◎ Appleの思惑とFIFAクラブW杯の未来
◎ 【起点観測】2024年エージェンシーランキング分析:インド・韓国・中国企業の台頭
◎ 【コラム】プラットフォーマーに必要な”芯”
◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース
ポストCookie時代にOracleが示した重要なシグナル
図1:Oracleの広告事業からの撤退を報じる米「AdExchanger」の記事
出所)AdExchanger(2024年7月1日)
米国Oracleは、2024年9月30日をもってグローバルでの広告事業を終了することを発表した(図1参照)。
日本国内において、この報道はあまり取り上げられておらず、当MAD MANレポートを通じて初めて知ったという読者もいるだろう。Web上で「オラクル_撤退」などのキーワードで日本語で検索しても、大手新聞社や報道機関の案内は見当たらず、「広告」というワードを追加しても、マーケティング専門誌での数行程度のアナウンスにとどまっている状況だ。
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オラクルが広告事業から撤退へ ポストCookie時代の業界地図は変わるか?
2024年06月17日 IT Media
出所:https://marketing.itmedia.co.jp
<以下抜粋>
Oracleは「Responsys」「Moat」「BlueKai」などの買収を重ねて広告部門を構築してきた。しかし、山積するプライバシーの問題は事業の継続を困難にしたようだ。
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日本での報道が少ないことを指摘するのではなく、ここでは「その程度の事業カテゴリーであった」という確認だ。Oracleが手を出したのは「軽いデータ側の事業」だったと言えるだろう。
Oracleは、自社のマーケティング・プラットフォームに付加価値を与える目的で、10年以上にわたり約4,000億円以上(約30億ドル、当時の為替レート換算)をM&Aにて広告事業へ投下してきた。その投資を終了するという決断に敬意を表し、次の展開に期待を寄せたい。
B2Bの基幹システムを担うOracleの視点からみると、「プログラマティック広告」はファネル理論上でのあまりにも軽い「あやふやなデータ」としての価値しか持たない、小さな「エコシステム」であり、本業の足を引っ張る投資であったと見切りを付けたのだ。
Oracleの基幹ビジネスであるエンタープライズ・クラウドは、健全かつ好調を維持しており、企業価値を約60兆円(約4,000億ドル 1ドル150円換算)にまで高め、過去10年で約3倍に成長させている(図2参照)。
図2:Oracleの本業の企業価値推移(過去10年)
出所)Google Finance(2024年7月15日)
今回の広告事業はOracleにとっては「すずめの涙」程度の規模だが、アドテク界隈ではOracleが手放す可能性のある現・広告事業の「引き継ぎ(割安で)」を巡る競争や、「ポストCookieに備えた代替の必要性」を訴えるベンダー側のアナウンスがしばらく続くはずだ。
■Oracleのマーケティング・アドテクに関する主な買収リスト
旧来のオムニチャネルなどの概念とは似て非なるエコシステムを示唆する概念なのだが、「ユニファイドコマースとは」とWeb検索をした結果、日本で説明されている一例が下記である。
- Responsys(2013年-Emailマーケティング 金額未発表)
- BlueKai(2014年-PC・スマホのサードパーティデータ収集 4億ドル)
- Datalogics(2014年-店舗・クレジットカード・ポイントカードからの購入データ収集による広告ターゲティング 12億ドル)
- AddThis(2016年-Webサイトのブックマーク 2億ドル)
- MOAT(2017年-デジタル広告のパフォーマンス分析および広告投資の最適化 8.5億ドル)
- Grapeshot(2018年-キーワードを使用したコンテクチュアル・ターゲティング 4億ドル)
BlueKaiやMOATを覚えている読者もいるかもしれないが、ここでは買収企業個々の特徴紹介は割愛する。Oracleの買収歴は、AdobeがDSPのTubeMogulを買収したような「広告枠の販売量」に向けた事業とは異なり、本業のSaaS契約につながる事業買収に専念していた。それでも結果として「水が合わない」という判断を下した。
時期にも注目しておこう。上記の例は抜粋だが、2018年以降、Oracleの買収活動は止まっている。この辺りで「変化」があったのが伺える。2018年とは、3月にFacebookによる「ケンブリッジ・アナリティカ事件」が報じられ、5月にGDPRが施行されたタイミングだ。この年がOracleにとって「このままではよろしくない」と気づいた起点だったのだ。
参考資料)
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【コラム】「ID スプーフィング」と広告の立ち振る舞い(2024年6月号 Vol. 115より)
<以下抜粋>
「ポストクッキー(対策)」という単語は、この立ち振る舞いから見れば、マーケター自らは非常に使いにくい姿勢を示す言葉である。ポストクッキーを研究してまで自社事業を拡大させたいならば、その覚悟や判断も企業側の責任の範疇だ。ターゲティングという「当てる」行為に進むのは、このような自社側に責任とリスクが伴うことの再確認とした。
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前号で取り上げた「お行儀の悪さ」を継続する某媒体社の姿勢と比較すると、Oracleは「気づきと修正(本業への回帰)」にシフトしたとも考えられる。Oracleでさえ、2018年に示唆された気づきの起点から路線修正の判断に6年がかかってしまった。
■ひっそりとしたOracleの公式アナウンス
良し悪しの修正もさることながら、Oracleの視点からすれば「小さすぎて儲からない事業」(2024年度の売上は約450億円、営業損益は未公表)であり、さらに向かい風が強いのは明らかである。
一例として、2020年にオランダで集団提訴された広告データの取り扱いに関するGDPR違反の訴訟(審議中)は、ユーザーへの支払いが8,500億円を超える(50億ユーロ、1EUR=170円換算)規模だった。営業利益が赤字かもしれない10年間の広告事業投資が、他の国を含め兆円規模の訴訟リスクを抱える「ミニセグメント」になっていたのである。
訴訟の矛先は「Oracleの基幹事業」のクラウドサービスであり、オランダ一国の市場でこの賠償規模である。他国への訴訟ドミノ現象の発生も大いに考えられるため、「もう広告ターゲティング事業とは一切関係ありません」という立場をいかに静かに準備しておくかが鍵となる。すでに米国でも2022年にORACLE AMERICA, INC., を被告とする集団訴訟が提訴されている。
「静かに」かつ「隠さずに発表」することが、今回のOracleの舵取りの意図である。二次情報である報道記事は存在するが(図1参照)、一次情報であるOracleの公式IR資料には「広告事業撤退」に関する発表は一切見当たらない。そのため、日本でもこの4,000億円の投資償却について、「誰も知らないまま」の状況なのだろう。
参考資料)
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2024年6月11日 Oracleの公式IRより
財務諸表を含めた決算概要サマリー(英文)
https://investor.oracle.com/investor-news/news-details/2024/Oracle-Announces-Fiscal-2024-Fourth-Quarter-and-Fiscal-Full-Year-Financial-Results/default.aspx
2024年度の年次報告書(Form 10−K)(英文)
https://d18rn0p25nwr6d.cloudfront.net/CIK-0001341439/d92207b0-c016-44ea-a770-4b6f6bb7982e.pdf
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上記合計で250ページ以上に及ぶOracleの公式IR書類のなかに、「Advertising」「Targeting」「Marketing」という単語は一切登場せず、「広告事業を辞めました」という関連表現も見当たらない。その代わり、プレゼンテーション当日の音声でわずかに言及されている。
参考資料)
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2024年6月11日の決算発表プレゼンテーションの音声文字起こし
出所:Seeking Alpha
<以下抜粋>
(DeepL翻訳)第1四半期と2025会計年度のガイダンスについてお話しする前に、2つ3つだけ注意していただきたいことがあります。1つ目は、第4四半期に広告事業からの撤退を決定したことです。広告事業の売上高は2024年度には約3億ドルまで減少していました。…
(原文)Before I discuss my guidance for Q1 and fiscal 2025, I do just want you to have a couple of notes. The first is that in Q4, we decided to exit the advertising business, which had declined to about $300 million in revenue in fiscal year 2024.…
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たったこれだけの「重箱の隅をつつく」ような音声アナウンスだ。オンラインプレゼンテーションのスライド画像もなく、この数秒間(数文字)での「事業撤退公表」からも、4,000億円投資の結末に「気づいてほしくない」というスタンスが理解できよう。
■見えない静かな発表こそが重要な示唆
Oracleという巨大クラウド企業が4,000億円を投資した「広告・マーケティング・プラットフォーム事業」をひっそりと閉鎖したことは、大きな示唆(シグナル)である。
インターネット創世記において、「広告(マーケティング)のターゲティングが技術上(覗き見で)可能になったぞ」と幻想を抱かれていたが、実際には規範に反する行為が横行していた。ケンブリッジ・アナリティカの事件やGDPR法律施行を契機に「襟を正す」方向に動いてきたはずだ・・・
続きはMAD MANレポートVol.116(有料購読)にて
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