NYアクタス社の鈴木さんに聞いてみた。米国進出のコツ。(後編)

本年1月、BICPはニューヨークオフィスを開設しました。そのサービスの一つとして、日本企業の米国進出支援のサービスをニューヨークに本社を置くActus Consulting Group(以下、Actus)との協業で開始しました。

前編に引き続き、Actusの鈴木CEO(以下、敬称略)とBICPで米国進出支援を担当する森国で、両社の米国進出支援サービスについて議論します。

前編はこちら

後編では、米国市場に進出する上で日本企業が取り組まなければならないポイントや進出の成功事例を議論します。

森国鈴木3シュッとしてるニューヨーカー・鈴木さんを真似て、僕も大阪でシュッとしてみた

最初のポイントは生活者理解 

森国:先ほど(前編の最後)、日本で販売されているものをそのままアメリカに持ち込んでも成功することは非常に難しい、というお話がありました。ここは本当に同意で、僕は以前、電機メーカーにいましたが「なんで日本向けの商品をそのまま海外に持っていくのかな?」という状況を何度も目にしました。そして、だいたいそれらの事業は不発に終わるか、撤退を余儀なくされています。

B2Cの商品であれば、まずはその国に住む人たちの生活を知ることから始める必要があると思います。彼らのライフスタイル、大切にしている価値、時間やお金の使い方、などなど。分かっているようで改めて調べると意外なことが見えてきたりします。

鈴木:まさしくその通りです。米国進出のご相談に来られた企業さんには、まず最初に市場調査をしたかを確認するようにしています。そうすると「担当役員が小売店や展示会の視察をし、競合商品も確認したけど、こんな商品なら自社商品の方が良いと思った。」などの回答が返ってくることが多いです。

でも、これは本当の市場調査ではないんですね。メーカー視点で競合商品との商品比較の調査になっていて、これでは、日本人には見えているようで見えていないリアルなアメリカ人の姿を理解できないのです。

私は30年以上アメリカにいて色々見てきましたが、このような状態でビジネスを始めた日本企業のほとんどは途中で頓挫しています。

我々が米国進出のサポートをさせていただく際には、生活者目線で、その機能はアメリカ人に必要な機能か、好まれるデザインかなど、より深く生活者を知ることから始めるようにしています。

その上でブランド名やロゴの検討、商品の色やパッケージの検討、コミュニケーションを検討しています。日本で販売している商品とは基本的な機能は変わらないのですが、よりアメリカの生活者が求めるような商品としてローカライズさせ、市場に送り出すようにしています。

森国:自分たちが住んでいる日本市場でさえ、生活者の理解が難しい時代ですので、ましてや異国の生活者の理解となると更に難しいと思います。先入観を抜きにして生活者を見にいくことが大切に思います。

 

二人三脚でのチャネル開拓

森国:次に重要になってくるのは、チャネル開拓ですね。最近はクラウドファンディングや越境ECもありますが、本格的に市場に参入するには、米国に在庫を持ち、チャネル通じて販売するか、自社ECを通じて販売するかの選択肢になると思います。Actusさんではどのような支援をされているのかお聞かせください。

鈴木:クライアント企業への支援を一言でいいますと、Actusは本来、現地法人が行う全ての業務を代行で実施している、と言えます。現地法人を立ち上げるとなると大きな投資が必要になるため、リスクを考えると中小企業が、いきなり現地法人を立ち上げることは難しいと思います。そこでビジネスが軌道に乗り、現地に販売会社を設立できるようになるまで二人三脚で市場開拓と市場拡大のご支援をしています。

まず、チャネル開拓の第一歩として、無名のブランドがいきなり自社ECを立ち上げるのはハードルが高いため、我々はクラウドファンディングでテストマーケティングを行い、その上で展示会や弊社の卸売りECサイト「Japan Collections」を通じて小売店と接点を持ち、取引につなげる方法をお勧めしています。

 

スクリーンショット 2021-10-09 15.31.34卸売りECサイト「Japan Collections」 https://japancollections.com

森国:Actusさんは全米の2000社の小売店とネットワークがあるのが最大の強みですよね。

鈴木:はい、我々は全米2000店にベンダー登録を持っています。ベンダー登録がないと取引を開始できないのですが、大手小売チェーンは、ベンダー登録が大きなハードルになります。アメリカでの取引実績がない、銀行口座がない、クレジットヒストリーがない、などではベンダー登録が難しいのですが、我々のクライアント企業はベンダー登録を持つActusを通じて小売店と取引することが可能です。

更に実際に取引が始まると小売店から非常に分厚い納品指示書が送られてきて、そこに事細かに納品に際しての指示事項が記載されています。間違った方法で納品すると全数返品なども起こり得るのですが、そのようなことがないよう我々はサポートしています。

また小売店との取引開始には、自社倉庫による流通、納品、米国国内での決済システムなどのビジネスインフラが必要ですが、本来、現地法人が行うそれらの業務をActusは全て代行で実施します。

我々はクライアント企業と二人三脚で一緒に歩み、ビジネスが軌道に乗ると我々の支援からはご卒業頂き、現地法人設立に繋げることができればと考えています。我々の支援が続くとノウハウが社内に蓄積されないため、クライアント企業のためにならないと考えているためです。

森国:自社のサービスからご卒業いただきたい、というお話は我々も共感できます。BICPもクライアント企業にマーケティングスキルのインハウス化を進めることを大きな目標にしています。我々が伴走してマーケティングのメソッドをクライアント企業にご提供し、自社内で戦略が作れるようになるとご卒業頂きたいと考えています。

 

米国進出の事例

森国:ここまで生活者理解の重要性とチャネル開拓のポイントをお話しいただきましたが、実際にActusで支援され、成功した事例をお聞かせいただけますか?

鈴木:和歌山県海南市に本社がある株式会社サンコーさんの事例をお話しします。海南市は日用品のメッカで多くの日用品メーカーがあります。サンコーさんもカーペットからお風呂やトイレのブラシまで、様々な日用品を製造し、主にホームセンターなどで販売されています。

まず米国進出にあたり、非常に多くの商品アイテムをお持ちなので、まず市場調査を行った上で市場に投入するアイテムを絞り、それをエンジンに米国市場開拓しようとアドバイスしました。その結果、フロアマット1本で勝負することになりました。

さらに市場調査からアメリカのリビングやキッチンで好まれて使われる色が日本とは根本的に異なることがわかったので、展示会に出展する前にフロアマットの色、パッケージデザイン、ブランド名をローカライズしました。

日本ではパステル調や淡い色が好まれるのですが、アメリカではモノトーン調の色が好まれるのでアメリカのインテリアに合うように商品の色を変え、パッケージデザインについても、日本では細かいことを書いても日本人は読んでくれるが、アメリカでは細かいことは読まないので、とにかくシンプルに特徴を伝えることができるパッケージデザインに変更しました。

ブランド名はサンコーさんの創業時の社名「三幸」から英語で3を意味するTriと幸せを意味するLuckyを掛け合わせ「TRILUC」としました。

  sanko            Triluc
サンコーの日本での商品写真と米国仕様の商品写真

結局、ご依頼いただいてから展示会に出展し、商品発売を開始するまで1年近く掛かりましたが、販売開始2年目から大手の小売チェーンのLowe’sに入ることができ、3年目にはウォルマートにも入ることができました。最近ではAmazonでも安定的に売れています。

また、展示会で日本のロフトさんと出会い、それがきっかけでロフトさん、更に東急ハンズさんにもアメリカ仕様の商品が入るようになり、日本の販路拡大にもつながりました。

Lowes Lowesの店頭と商品勉強会 こうした小売店の従業員勉強会も販売拡大には重要である 

進出に際して多くの企業が抱える課題

森国:数多くの日本企業の米国進出をサポートされてきたご経験から、進出に際して多くの日本企業が抱える課題はなんだと思われますか?

鈴木:先ほども申し上げましたように、日本の商品をそのまま持ち込むのではだめですね。まずは展示会出展、ではなく、出展前の準備、特に米国の生活者を理解した上で商品のデザイン、色、パッケージなどを考えることが重要です。

そして、いつも必ず問題になるのが販売価格です。輸送費、関税などもあり、同等の米国メーカーよりもどうしても価格が高くなります。日本での販売価格の倍近い価格になることもあります。

森国:その価格ギャップを埋めるために、どのようにしてそのブランドを語り、ブランド価値を高めるかが大切になりますね。

鈴木:その通りです。価格差を埋めるにはブランド力が必要になります。そのブランドや商品が持つヒストリーをいかに生活者に伝え、ブランド力を高め、価格差を埋めることが大切になります。アメリカではインフレが進んでいて日本とは物価差があるとはいえ、それでも価格ギャップを埋めるためのブランド上の課題には必ず直面します。 

森国:具体的に日本企業がブランディングで取り組むべきことはどのようなものでしょうか?

鈴木:アメリカに限らず世界ではSDGsの視点が重要になりますが、そこは実は日本企業が強みを持つ部分だと思っています。その中でもサステナブルがキーワードになっているが、日本企業はここにブランディングに使える資産を持っていると思うのです。

日本には100年、200年と続く歴史がある企業が多くあります。長く続いていること、それそのものがサステイナブルでありますし、それは歴史の中で長年培ってきた技術、経験を持っていることを意味します。

この資産を活かしたブランディングを行うことは日本企業の強みになるのではないかと思っています。

特にミレニアル世代、更にGen Zはサステイナブルなものに敏感なので、Made in ChinaやMade in USAには語れないストーリーを持つ日本企業にはチャンスがあると思っています。

森国:真摯なモノづくりの姿勢、お客様の期待の一歩先をいくオモテナシのサービス、地域社会への貢献など、それらを当然のことのように行っている歴史ある日本企業は多いと思うのですが、残念ながらそれらを積極的にブランディングで活かすことができていないケースが多いと思います。 

培った歴史、そこにある資産を軸にしたブランディングは日本企業にとっては大きな可能性がありますね。

今のアメリカの生活者を理解し、その上で自社の歴史や技術、商品などの資源と生活者をつなげる価値をいかに作るのかがとても重要になると思いました。


編集後記

BICPは生活者理解を起点にクライアント企業の戦略設計を行うことを大切にしています。しかし、自分たちが生活している日本市場でも生活者を理解することが難しくなり、簡単には商品やサービスが受け入れられない時代です。

自国内の生活者のことでさえ、実は私たちは、分かっているようで分かっていない。ましてや異なる言語、文化や生活習慣を持つ海外では、まず、その国の生活者を日本人にとっての「当たり前のモノサシ」を抜きにして見にいき、理解することが極めて重要だと思います。まずはこのプロセスを抜きにして海外市場での成功はない、と個人的経験からも断言しても良いと思います。

そして、生活者理解をもとに自社の資産を活かした独自の価値を生活者に届ける商品やコミュニケーションを企画していくことが、海外に進出する上では必須に思います。

今後、BICPはActusと協業のもと、ユニークな資産を持ち、海外で更なる飛躍を目指したい企業のご支援を行っていきたいと考えています。


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