アウトプットする勇気。

人生で初めて、本を書きました。
『マーケティングフレームワークの功罪』、5月23日(金)に全国の書店、Amazon、楽天ブックスなどで発売開始されました。
以前より、いつか本を書きたいなあ、という漠とした思いはあったのですが、1冊の本というのは、たまにお世話になっている寄稿とは文章量が違うので、読者の方の期待に耐えうる品質と量を担保するだけの、知識、専門性、経験に自信を持てるかというと、例えば業界の諸先輩方が書かれている偉大な書籍などを読んでしまうと、腰が引けてしまう部分もありました。
さらに、僕の身近には、毎年一冊は本をコンスタントに世に出し続けている業界人間ベムこと横山隆治さんと、毎月BICPが発行しているMADMANレポートってので毎月3〜4万文字書いている榮枝洋文さんというものすごいスピードで文章をアウトプットしまくる先輩がおりまして、こんな量書ける人が近くにいると余計に尻込みしたりして。ちなみに横山さんは直近の著作では数日で5万字くらい書いてしまったそうです。すごい、、
そんなこんなで、意志はありながらも得意の後回しで、ずるずると、本を書かないできたわけですが。いよいよ書こうとケツを切った理由は、今年の4月でBICPが10周年を迎えるということに加えて、昨年の5月、僕の51歳の誕生日で本当は40代の締めくくりくらいでやれていればよかった積み残しをこの一年でいい加減にチャレンジにしよう、と心に決めたことです。もうここで腹括らないと、一生書かないで終わるなあ、というタイミングでもありました。めっちゃ個人的な理由w BICPの事業のために、とか書籍からのお仕事のリードをつくるぞ、みたいなビジネス的なモチベーションが、ほぼなかったということを白状しておきます。社長がそんなことでええんか。
テーマはもともと、『デジタル時代のマーケティングプロデュース術』という僕の鉄板コンテンツでいこうと思っていました。このコンテンツは、企業と顧客がつながり続けるデジタル時代に、どうやってマーケティング活動をマネジメントしたらよいのか、というのを5つの視点で整理してお伝えしていくものです。わりと独自性もあって、僕がマーケティング研修を担当する企業さんには、コンテンツの一つとして提供していますし、宣伝会議さんでは10年近くデジタルマーケティング実践講座の最終コマで採用いただくなど、一定評価をいただいていまして。これをベースに掘り下げていけば、お役に立てる内容になるかな、なんて思っていました。
ところが、初回の企画会議。編集についていただいた日経BPの酒井さんから、こんなことを言われました。
「菅さん、マーケティングプロデュースという概念はとても大切だと思うんですけど、一冊目はもう少しエッジーで問題提起するようなやつ書きましょうか。最初の書籍はインパクトあるやつがいいです。それやってから、次に菅さんが言いたい概念を提唱しましょう。ちなみに、この章立てにある『フレームワークの功罪』ってめちゃいいですね!これどういう意味ですか?これ軸に考えてみませんか?」
そうなんです、『デジタル時代のマーケティングプロデュース術』という書籍の企画書の中に、『フレームワークの功罪』という章立てをしてあったのです。それを酒井さんに拾っていただいて、書籍名になったのでした。
 
フレームワークの功罪企画書
(一回目の企画会議の資料にあった本のタイトル)
編集者ってすごいなあ、と改めて思います。僕という人間の脳みそに入っているものはだいたい同じなんですけど、どういう切り口にするかでアウトプットが全然変わるというか。酒井さんは、最近はシンフォニーマーケティングの庭山さんの「儲けの科学」や、コレクシアの芹澤さんの「戦略ごっこ」などを担当されている敏腕編集者。担当いただけて、本当によかったです。
しかし、おおお、「功罪」が軸か、、確かにエッジーだし、面白そう。でも、業界には優れたフレームワークを提唱されている先輩もいるしなあ、、そして、何よりも僕自身がフレームワーク大好きだしなあw などなど、一つの章ではなく書籍の冠として「功罪」を扱うには、どういう入口と着地にするか、思い悩みながらまずは筆を進めることにしました。
当初の出版予定は4月でした。酒井さんとは、完全原稿を1月中という約束だったんですが、2ヶ月遅れて3月末。4月はゲラの校正をおこなって、一部書き直し。そして、5月末に出版です。
遅れた理由は、やっぱりなかなか書けなかったこと。筆が進まなかったというか筆をとれなかった時期がありました。書けない理由というのは、時間がうまくつくれない、仕事やりながらだと頭が切り替えられない、などなど言い訳は並べたらたくさんあるんですがw 一番の理由はちっぽけなプライドと気の弱さです。
書くほどに感じる、自分の勉強不足、知識のなさ。これを世の中に出したら自分の浅はかさが露呈してしまうのではないかという謎の自意識。そして「功罪」というタイトルゆえに、誰かを傷つけてしまわないかという一方的かつ勝手な思いやり。などなど、要するに、自分で書くと決めたにも関わらず、日経BP社の販売会議などでもGOが出て既に色々な方が動きはじめてお世話になっているにも関わらず、世に出す勇気に逡巡してウニウニしていた期間があったのです。人間です。
最終的には、酒井さんにやんわりと、ニコニコと、度重なる遅延でいよいよ後が無いよ!という優しい追い込みをいただき、3月は1ヶ月間、割と仕事も休日も返上して、ガッツで書きました。毎朝5時から執筆に集中する独特の時間と空間、あれが、ゾーンというやつですね。
そして不思議なことに、ケツを切られて必死こいて書いていたら、第三部から終章に向かうあたりで、自分自身の結論や伝えたい意志が確固たるものになり、逡巡が融けていきました。もともと、自分が伝えたかったことにぐるりと遠回りして戻ってきたというか。要するに、それまでは迷走していたってやつですw もっと書きたいという気持ちが芽生え、吹っ切れて筆が前向きになりました。これも不思議な経験。意識より行動。行動することによって、気持ちの問題が解決されることがあるのだと改めて。
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(週末のBICPオフィスにて、赤入れ)

結果、「功罪」というタイトルに加えて「フレームワークばか」「ブランドポリス問題」「ご都合ジャーニー」など、エッジーな問題提起の言葉は用いつつも、自分で言うのもなんですが愛のある本に仕上がったかなと思います。僕じゃないと書けないことを、書けた気がします。僕は、マーケティング思考を用いることで、企業も、生活者も、僕たち働き手ももっと幸せになれる、と信じています。そして、基礎を大切にすることの大切さと、思考実験の旅の面白さと、その先に独自のやり方を手に入れた企業や人は、それ自体が戦略となり競争力になっているという発見を、お伝えしたかったのです。その境地に辿り着くためには、どうしたらよいのかについて、いま、僕が持っている知識や経験を出し切りました。出し切ったのカラカラです。
完璧な知識や経験がないと書籍をアウトプットできない、というのも誤りでした。なぜならば、完璧な状態などには一生辿りつけないからです。仮に5年後、いまの僕より優れた人間になっていたとしても、その時でも、きっと自分の至らなさを感じているはずです。なので、これを気にしてたら一生アウトプットできない。であれば、いまの自分のレベルでアウトプットしてみる。そこにさまざまな批評が生まれることも、前向きに捉える。アウトプットとは対話のきっかけであり、思考をアップデートする機会であり、そのための道具なんだなあ、という心持ちです。どうでもいい自尊心は捨ててアウトプットする潔い気持ちになんとか辿り着けけたことも、執筆へのチャレンジで得ることができたよい経験です。
正直いうと、自分のタイムマネジメントの理由で、もうちょっと言葉の揺らぎを合わせたり、同じことの繰り返し感を整えたり、後から感じられる課題はあるんです。ただまあ、それもひっくるめて、まずは一回目の執筆、出版ということで、いまの実力。課題は次に持ち越しということで、ご容赦いただけましたら幸いです。お読みいただき、ご意見、ご感想、フィードバックいただきたなら、会話ができましたら、とても嬉しく思います。
本著で言及した「永遠のベータ版」ならぬ、「永遠の未熟者」ですが、それゆえ、本、書いてみてよかったです。アウトプットする勇気!
これまで経験、知識をいただいた全ての皆さま、BICPの起業や日々の営みを応援いただいた皆さま、いつも思考実験を共にしてくれるBICPグループの仲間たちに心から感謝しています。 ありがとうございました!
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(発売日に訪問した、ジュンク堂池袋店)

written by  Kyoichi Suga