<9月号の目次>
◎ 「不思議の500万件」が分けるAI時代の生存ライン
──顧客基盤の分岐点とデータの重み(前編)
──見えないCACからAIインフラ固定投資へ(後編)
◎ AI設備投資「見えていない巨額」の正体
――ハイパースケーラーのCapExをギガワットで捉え直す
◎ 日本のIPが米国で化ける「見えない技」
──ラウンドワンとGENDAが仕掛ける床と棚の構造
◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地
◦ 「人型AIロボット」の量産が提供する価値
日本のIPが米国で化ける「見えない技」
──ラウンドワンとGENDAが仕掛ける床と棚の構造
<本章のポイント>
■米国モール──退店帝国の椅子に誰が座るか
米国のショッピングモールは、この10年「退店の帝国」だった。Sears、JCPenney、Macy's、Neiman Marcus、Saks Fifth Avenue、Lord & Taylorと、モールの両端を支えていた百貨店が次々に床を明け渡した(図1参照)。
ECに客を奪われた大型店の跡地は、天井が高く、駐車場が広く、家賃が叩き売り状態で安い。日本でも同様の現象は見られるが、米国ではより長期にわたり広大なスケールで起きている。これは「安い床の大量供給」だが、客足の途絶えたガラガラのモールにあえて乗り込む一般的なテナント事業はない。
図1:米国の「モールの終焉」と言われる風景
出所)New York Times (2020年12月17日)
衰退する米国ショッピングモールで救世主のごとく進出を加速させたのが、大阪の郊外ボウリング場発祥の「ラウンドワン(Round 1)」だった(図2参照)。同社はカリフォルニア州ローズビルで、2018年に閉店したSearsの跡地にアーケード機300台、ボウリング8レーン、カラオケルームを配置した。現在、米国の店舗数は59店舗(2026年4月時点)に達する。業績面でも、日本国内の売上1,087億円(セグメント利益228億円)に対し、米国売上は797億円(セグメント利益86億円)と、いまや強力な収益の柱に成長している。
図2:New York市郊外の「Round 1」の駐車場前
出所)Google Map
■ラウンドワンの見えない技“底値の床・直取り景品・IPコラボ”
ラウンドワンを支える「見えざる3つの技」を紐解きたい。
一つ目の技は、「床の仕入れ」である。モール側はどんどん広がる百貨店跡地を埋める強力な「集客の錨(アンカーテナント)」を欲しがっている。そのため、ラウンドワンは家賃交渉で圧倒的に優位に立てる。米国59店舗のほとんどがモール内に位置しており、日本に本社を置く企業が米国の不動産市況の底値を拾い上げている構図が見える。マンハッタンのような超一等地ではなく、図2に示すような郊外型の空きスペースだ。
二つ目の技は、「景品モデルの転換」である。米国の伝統的なゲームセンターは「リデンプション(Redemption)」と呼ばれ、プレイ結果に応じてチケット(ポイント)を発行し、カウンターで安価なおもちゃに交換させる。対して日本型は、クレーンゲームでぬいぐるみやフィギュアといった「現物」を直接獲得させる構造だ。米国式のチケットという仲介を排除し、景品へ直行させる。まるで「中間業者を切って景品へダイレクトに届けるリデンプションの進化形」のビジネスモデルだ。
三つ目の技は、「コラボモデルの型の輸出」である。同社は日本国内で月30本近くのアニメやアーティストとのコラボレーションを展開し、集客の底上げを図っている。この仕組みをそのまま米国へ持ち込み、2026年夏には「ONE PIECE」とタッグを組み、日本100店舗と北米59店舗で同時キャンペーンを実施した。クレーンゲーム限定のぬいぐるみ、専用デザインのカードゲーム、定額チャージで進呈する記念品といった仕組みをそのまま組み込んでいる。
図3:米国ラウンドワンのIPキャラクターとのコラボキャンペーン
出所)Round One
米国の公式SNSアカウントは毎月「今月の新景品」を告知し、ポケモンやサンリオ、セーラームーン、チェンソーマン、初音ミク、葬送のフリーレンがずらりと並ぶ。日本の読者には見慣れた光景だが、現地では極めて入手困難な「正規ライセンス品」や「限定ぬいぐるみ」を大量に確保している。米国のZ世代にとって、「本物のIPが手に入る唯一の場所」として機能している。
店舗オペレーションも磨かれている。受付・精算機(非対面KIOSK)を多言語化し、従来は店員が担っていた業務をアプリに置き換えることで、浮いた人手を新業態の開発に振る。1店舗に300台以上のクレーンゲームを敷き詰める「ギガクレーンゲームスタジアム」も、この徹底した省人化構造があって初めて成立する。米国の顧客が見ているのはアニメのぬいぐるみだが、その背景では20年かけて磨かれた「日本のゲームセンター運営の型」が丸ごと稼働している。
■米国最大手「Dave & Buster’s」の低迷
米国の施設型エンターテインメントの老舗「Dave & Buster's(D&B)」は、「イートテインメント(飲食とエンタメの融合)」を掲げてきた。アルコールを提供するバーカウンターを備え、大画面モニターでスポーツ中継を流す、いわば「巨大スポーツバー併設型アーケード」だ。
D&B はNASDAQ上場企業であり、全米で184店舗(別業態の「Main Event」を含めると250店舗)を展開するが、事業価値は外出自粛期の水準にまで下落し、時価総額は約360億円(2.4億ドル)と低迷が続く。ラウンドワンの米国における1店舗あたり売上はD&Bとほぼ同等だが、企業価値(時価総額)には10倍以上の開きが生じている。ラウンドワンが実質無借金経営を維持する一方、D&Bの純有利子負債は時価総額の6倍に達し、2021年以降でCEOが3人入れ替わるなど混乱が目立つ。
また、ラウンドワンは明るく清潔な空間づくりを徹底し、家族連れや学生を主なターゲットにしながら「ジャパニーズ・フードホール」(図4参照)を展開する。ラーメンや寿司、焼き鳥などの日本の名店をフランチャイズ(FC)として招き入れるアセットライトな手法だ。対照的にD&Bは自社でレストランを運営する。ラウンドワンはフードホールという売り場に一流の日本食IPを展開し、小規模飲食店の米国進出の足がかりを作っている。ただし、人件費が高騰する飲食部門への関与は、採算性においてまだ実験段階といえる。
現地コミュニティで「若者の安全な居場所」と評価される理由はここにある。「店舗の清潔さ」「Z世代を惹きつける限定キャラクターグッズ」「富裕層も満足する食」という、日本では当たり前の要素の組み合わせが、米国市場では大きな差別化要因となっている。
ラウンドワンは米国子会社の株式上場(IPO)も検討段階に入った。米国の投資家が「クレーンゲームで稼ぐ事業構造」にどのような値を付けるのか、注視したい。
図4:米国ラウンドワンのフードコートに進出する日本料理店の例
出所)ラウンドワン(日本)
■GENDAの技──店舗ではなく「棚」を1万箇所押さえる
旧セガのゲームセンターを継承し「GiGO」を展開するGENDAの米国戦略は、ラウンドワンとは異なる「型」をとる。大型店舗を自前で構えるのではなく、他社店舗の一角にあるスペースや「棚」を借り受けるモデルだ。
図5:GENDA Americasが展開する「Kiddleton」ブランドのクレーンゲーム機
出所)Kiddleton
同社はWalmartやデニーズの出入口脇にある無人ゲームコーナー(図5参照)を全米で約8,000箇所運営していたNEN社を買収し、さらに映画館やモール内の運営会社を相次ぎ買収した。わずか2年で、日本のコンビニ総数の4分の1に相当する「棚」を手に入れた計算になる。北米約1万2,000箇所の「ミニロケ」を拠点として、日本のIPを面で広げる戦略である。
■全店巡回を支える現場の「足」とAIデータ
GENDAの現場オペレーションにおいて、無人筐体を巡回して景品を補充する「ラウンダー」の動線管理は極めて重要である。同社では新管理システムへの移行に伴う現場の負荷により、2025年10月から11月にかけて月間の巡回数が約4割低下する局面があった。IP景品は鮮度が命であり、ぬいぐるみの入れ替えが滞れば直ちに売上に響く。
そこで本部が「どの筐体に、いつ、何を補充すべきか」「どのエリアを優先するか」「最短の巡回ルートはどれか」を業務アプリで指示し、指示通りの巡回成果をポイントで評価する仕組みへと整えた。指示に基づく徹底した巡回オペレーションにより、移行からわずか1ヶ月で旧システム時の売上水準を上回る回復を見せた。
ここに、同社が抱える本当の強み(飴玉)が見えてくる。GENDAが米国で展開しているのはぬいぐるみやキャラクター商品の販売ではなく、1万箇所超の補充タイミングをコントロールする・・・
続きはMAD MANレポートVol.142(有料購読)にて
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