<11月号の目次>
◎ Amazon×Whole Foodsの「MFC 2.0」が始動 ――流通の鍋底が動く時
◎ リファービッシュ事業の持続可能性を目指す「Back Market」
◎ OpenAIのAWSへの5兆円投資が示す電力シフト
◎ “FIFA W杯 2026”スポンサー地図の地殻変動とNY首都圏の現実
◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地
OpenAIのAWSへの5兆円投資が示す電力シフト
■Open AIによるAWSへの380億ドル投資の本質
2025年11月3日、OpenAIはAmazon Web Services(AWS)のインフラに対し、今後7年間で380億ドル(約5兆9,000億円)を投資すると発表した。このニュースは、生成AIをめぐる企業の投資配分が「Compute=チップ争奪戦」から「Power=電力確保」へと明確に軸足を移した転換点を示す。
図1:OpenAIへのAmazon出資を報じる日本のテレビ局のニュース
出所)左:テレビ東BIZ 右:ANN NewsCH
日本の報道では、Amazon/AWSだけでなく、直近のMicrosoft・Alphabet(Google)・Oracleなどの出資相関図を並べて、「全方位提携」「パートナーマップ」といった表層的な解説が目立つ(図1参照)。
しかし、見えにくい部分として本章はこれまでのAI企業(OpenAIやAnthropicなど)がクラウド企業から出資される構図から流れが反転し、AI企業側→クラウド企業側へ巨額出資している動きを確認しておきたい。
これらの“AI企業側による積極出資”を後方で支えるのが、以下の巨額プレイヤーだ。
いずれも、AI企業が動く前に先回りで燃料補給をしていた格好だ。
■資本の流れは「電力パイプ」を太くするための一本化
冒頭で触れた、OpenAIを“吸引力”とする一連の資金循環は、資本が「提供側→受益側→出資者」へと循環するループ構造を形成し、メディアでは「全方位提携」や「循環経済」といった言葉で語られている。
図2:2025年1月発表「Stargate」構想 ─ OpenAI・ソフトバンクG・Oracleによる総額5,000億ドル規模のデータセンター投資計画(10万人超の雇用創出を含む)
出所)Reuters
しかし、本章で注視したいのは、こうした表層的な相関図の並列ではない。“AI企業→クラウド企業”へと流れる資本の方向転換そのものだ。これは単なる金融取引ではなく、AI企業が自らの生存条件である「電力確保」という一本の“縦パイプ”を強制的に太くし始めた動きを意味している。
すでに巨大AI企業(OpenAIやAnthropicなど)は、AIシステムを稼働させる上で、単一の巨大クラウド企業では電力共有が物理的限界に達しつつあるという現実に直面している。だからこそ、AI企業が自ら資金を投じ“第二の心臓”となる電力源・インフラを別軸で確保するため、クラウド企業との新たな一本釣りラインを形成し始めているのだ。
これらの動きは偶然ではない。2025年11月3日の「OpenAIによるAWSへの380億ドル出資」の発表は、その半年前(2025年4月)にソフトバンクがOpenAIへ事前供給した資金とほぼ同額・同タイミングである(補足:ソフトバンクの出資枠は自社出資+ファンド経由で約400億ドルとされる)。
さらに、2025年1月のトランプ政権就任直後に、ソフトバンクGの孫正義CEOがホワイトハウスでOpenAIのサム・アルトマン氏と並び、米国への巨額投資を“政治空間”で宣言したあの一枚絵(図2参照)が象徴する通り、その後の数ヶ月~半年間で、宣言どおり資本の流れが着実に具現化していった構図が見えてくる。
■OpenAIによる壮大なロードマップの第一歩
OpenAIは、外部から調達した巨額資金をモデルの性能そのものの向上ではなく、「物理的な計算能力と電力」へ直接変換する“燃料”として事前に確保していた。資金調達(Finance)と設備投資(CAPEX)が一直線につながる、典型的な“先に燃料庫を満たしてから走る”構造である。
さらに、OpenAIがAWSとの提携を発表したその前週は、2019年の初回出資契約に基づきMicrosoftが保有していたOpenAIとの「独占交渉権(First refusal)」が失効したタイミングだった。この期限切れを見越し、OpenAIは事前に“身辺整理”を済ませ、Microsoftの競合であるAWSとの本格交渉を水面下で進めていたことが読み取れる。
一方で、OpenAIはMicrosoft側との関係も切っていない。2025年10月28日には、Azure/Microsoftと総額2,500億ドルの長期契約を延長しており、単一のパートナーに寄らず“全方位でパイプを太く繋げる”という戦略姿勢は崩していない。
こうした動きの裏側で、OpenAIの独占パートナーであったはずのMicrosoftのサティア・ナデラCEOは、率直にこう語っている。
「必要なのはチップではなく、チップを動かす電力だ。インフラが物理的な限界に来ている」「More compute(さらなる計算量)の要求に、供給が追いつかない」
こうした発言は、単なる企業同士の契約更新や提携関係の変化ではなく、AI産業全体の重心が“計算能力の向上”から“電力争奪戦”へと移行した大きな地殻変動を示している。まさに、世界経済の新しい支配軸が立ち上がりつつあるシグナルと言える。
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マイクロソフトのCEOは、同社は在庫にすべてのAI GPUをインストールするのに十分な電力を持っていないと述べた──「実際には、私が接続できないチップの束が在庫に座っている可能性がある」
2025年11月2日 Tom's Hardware
出所:https://www.tomshardware.com/tech-industry/
<以下、記事抜粋(Google自動翻訳)>
マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏は、OpenAI CEOのサム・アルトマン氏とのインタビューで、AI業界の問題はコンピューティング能力の過剰供給ではなく、GPUを全て収容するための電力不足だと述べた。実際、ナデラ氏は現在、在庫にあるAI GPUの一部を接続するのに十分な電力が確保できていないという問題を抱えていると述べた。
OpenAIは連邦政府に対し、年間100ギガワットの発電所を建設するよう求めており、これは中国とのAI競争における優位性獲得を目指す米国にとって戦略的な資産だと述べている。
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図3:OpenAI サム・アルトマンCEO/Microsoft サティア・ナデラCEOによるYouTube対談(2025年10月31日)
上記のMicrosoftナデラCEOの発言と、OpenAIアルトマンCEOとの直接会談(図3参照)から読み取れる今回のディールの背景には、次の3点が挙げられる。
1)AI向け送電網のキャパシティ不足
既存データセンター(特にMicrosoftの主要拠点であるバージニア州アッシュバーンなど)は、すでに送電容量の限界に達しつつある。このため、新たにAI GPUを追加したくても「電力が来ない」ため設置できない。変電所の増設や送電線の敷設には通常5〜10年を要し、AIの進化スピードにまったく追いついていない。
2)高度AIモデルの“計算量ジレンマ”
GPT-5やGPT-6といった高度モデルは、性能を引き上げるほど必要電力が指数関数的に増大する。一方、電力インフラの整備は遅く、モデル開発そのものが遅延するリスクがすでに顕在化している。ナデラCEOが示したのは、チップ不足の次に訪れた、より深刻で解決困難な「電力不足」という壁を公式に認めた形だ。
3)電力インフラ投資のタイムライン問題
MicrosoftもAIインフラへの大型投資を継続しているが、電力会社との契約から実際の給電開始までに数年のリードタイムが生じる。OpenAIはこうした“待ち時間”を嫌い、すでに電力キャパシティを確保できるAWSへ別ルートを先に開いた。
本来であれば“契約延長でOpenAIにフラれた側”に見えるMicrosoftだが、実際にはむしろ歓迎している。理由は単純だ。OpenAIの成長スピードに、Microsoft単独の電力供給能力が追いつかなくなった、という事実が双方の共通認識となっているためだ。
同様の動機はAnthropicやGoogleなど、AI産業全体に及んでいる。いまクラウド事業者間で起きている競争は、もはや「チップの所有競争」ではない。“どれだけ電力を自前で確保し、提供できるか”というパワーゲームに完全に移行した。
■ チップは運べても、電力は運べない
半導体は世界中どこへでも輸送でき、サーバー施設が整えば数ヶ月で“能力移植”が可能だ。半導体を積み増せば、理屈としてはどこでもAI能力を増強できる。しかし、電力はまったく別物だ。
たとえば、福井県の巨大発電量を千葉県の湾岸データセンターへ“運ぶ”ことは現実的には不可能である。
この制約は、過去10年間デジタル産業が推進してきた「どこでも働ける(Work from Anywhere)」という価値観とは、まったく異なる別軸の“エネルギーが支配する地理制約”の課題を突きつけている。
これまで、都市の価値は「人の移動のしやすさ」で決まってきた。通勤・鉄道網・道路・空港アクセスといった人間中心の基準が地価を押し上げてきた。
ところが、AI時代の価値基準は逆転し得る。AIを起点とした発電量や送電網といった「エネルギーの交通」を軸に見ると、新たな“都心価値”が生まれる。これまで都市部の価値を支えてきた「移動の近さ」「情報の豊富さ」といった日々の利便性よりも、地方が持つ「電力への近さ」「十分な電力量」「安定した情報処理基盤」といった経済価値が年間・地域単位で上回る可能性がある。
図4:ソフトバンクGが米国内の台湾系電子機器メーカー工場を買収し、AIデータセンターへの改修を開始
その象徴が、ソフトバンクGによる工場跡地のデータセンター化投資だ。米国内の“電力が太い土地”を次々と買収し、広大な空き工場をAIデータセンターに改修し始めている(図4参照)。電力・広大な土地・既存インフラの三拍子が揃った、AI時代ならではの戦略的ディールだ。
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ソフトバンク、OpenAIデータセンター工場に最大30億ドルを投資へ
2025年11月20日 The Information
出所:https://www.theinformation.com/articles/softbank-invest-3-billion-factory-openAI-data-centers
<以下、記事抜粋(Google自動翻訳)>
ソフトバンクは、オハイオ州ローズタウンにある電気自動車工場の改修に最大30億ドルを投資する計画だ。この工場は、OpenAIの今後開設予定のデータセンター向け機器を生産する予定だ。さらに8月に台湾の電子機器メーカー、フォックスコンから3億7500万ドルで買収したローズタウン工場を改修している。
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今回の投資は、 1月にホワイトハウスで華々しく発表されたOpenAIとソフトバンクによるデータセンター共同開発の取り組みが前進していることを示している。
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OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏は同僚に対し、同社は「よりリソースに恵まれた」ライバル企業に対する優位性を維持するために、データセンター事業に着手すると語った。アルトマン氏は、2033年までにデータセンター容量を250ギガワットに引き上げたいと述べ、現在の約2.4ギガワットから引き上げたいとしている。この非常に野心的な目標は、現在の米国のピーク時電力消費量の約3分の1に相当する。
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■電力パワーに惹きつけられる企業経済の移動
AI電力不足の進行により、これまで常識とされてきた「人の移動(通勤・生活圏)を前提とした都心一極集中モデル」は、いま静かに崩れ始めている。バージニア州の電力会社Dominion Energyですら、過疎地域の町に対して「これ以上の急激な電力需要増には対応できない」と警告を発しており、地元自治体・市民から悲鳴が上がっている。
OpenAIとAWSの提携が象徴するように、次世代のAI計算拠点とは、もはや「市民生活インフラ(下水・道路・光ファイバー)」に適した場所ではない。むしろ「AIのためだけに電力の太いパイプを確保できる土地」へと軸足を移し始めている。
この変化に応じ、米国はすでに東海岸のニューヨーク州や西海岸のカリフォルニア州を離れ、バージニア州・テキサス州・ケンタッキー州といった中部の“電力地帯”に金融機関やデータセンターが集積しつつある。州境を超えて広域で「電力をめぐる経済圏」が形成されている状況だ・・・
続きはMAD MANレポートVol.132(有料購読)にて
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