MAD MAN MONTHLY REPORT

Vol.130 Starlink8,400基が動かす“地上と空の新インターネット”




<9月号の目次>

◎ 米Targetの苦境“レガシー資産と未来投資の狭間で”

◎ 紙芝居と飴玉の「エンベデッドモデル」とその進化

◎ Starlink8,400基が動かす“地上と空の新インターネット”     

◎ アシックスの成長戦略 ──市場共創で築く高価格事業

◎【コラム】MAD MANが読み解く日本発ニュースの現在地


Starlink8,400基が動かす“地上と空の新インターネット” 

 

イーロン・マスク氏が率いる「Starlink」の衛星は、2025年9月17日時点で8,405基が地球を周回し、通信網を張り巡らせている。MAD MANレポートの起点観測(キテカン)でも、2022年11月号 Vol.96では3,200基、2023年9月号 Vol.106では4,786基と報告してきたが、このわずか数年でさらに倍増した。

SpaceX/Starlinkは、先発者メリットと技術の内製力を強みに、他社を圧倒するスピードで「衛星コンステレーション」を構築してきた。ロケットから衛星まで自前で開発し、数百機単位の打ち上げを既成事実化させる展開力は群を抜いている。

この「衛星コンステレーション通信」は、単なるインフラ提供にとどまらず、その上に多様なサービスやエコシステムがグローバル規模で醸成される可能性を秘めている。通信の新たな概念 ──「地上+空(宇宙)のハイブリッド」の世界が広がりつつある。

日本の事業者にとっては、国内市場に閉じた視野を超え、Direct-to-Cellやグローバル・プラットフォーム競争にいかに参入するかを、自社のポジションや投資・協業の観点からDDS(で・どう・する)の視点で考えておきたい。(Starlinkはすでに日本国内でもサービスを提供している。読者の皆さまは試してみただろうか。)



図1:Starlink「Direct-to-Cell」の将来像(英文ページ)

出所)SpaceX .com

 

Starlinkとスマホの直接接続

Starlinkは、これまでのアンテナ(皿型端末)を介する方式から一歩進み、スマホを直接衛星に接続する通信フェーズへと突入した。同社は2.5兆円(170億ドル)規模の地上通信帯(ライセンス)買収を発表し、インフラの拡張へ加速している。

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スペースX、米エコスターから170億ドルの周波数購入 自社網強化
202597日 Reuters(日本語版)
出所:https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/

<以下抜粋>
イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業スペースXは8日、米衛星通信会社のエコスターが保有する無線周波数帯のライセンスを約170億ドルで購入すると発表した。衛星インターネットサービス「スターリンク」向けで、スペースXは米通信大手Tモバイルなどから借り受ける周波数帯に依存するだけでなく、自社所有の周波数帯でサービスを展開できるようになる。
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EchoStar Announces Spectrum Sale and Commercial Agreement with SpaceX
202598日 ECHOSTARリリース
出所:https://ir.echostar.com/news-releases/news-release-details/
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図2:EchoStarの過去5年間の株価推移(直近1ヶ月で過去平均の3倍に上昇)

出所)Google Finance

 

Starlinkが提唱する「Direct-to-Cell(D2C/DTC)」とは、既存のLTE対応スマホをそのまま衛星に接続できるサービスを指す。衛星側に4G LTE基地局相当のモデムを搭載し、「宇宙に漂う携帯基地局」として機能させる仕組みである。これにより、ユーザーのスマートフォンは通常のローミング基地局と同様に衛星を認識し、専用ハードウェアやアプリなしで通信が可能になる。つまり、これまで空に張り巡らされていた衛星ネットワークが、地上のスマホ通信に直接降りてくる形となる(図3・4参照)。




図3:衛星コンステレーションと従来型気象衛星との距離比較  
(地球直径と「高軌道」「低軌道」の差を可視化) 

・地球の直径:約12,000km、・黄色:高軌道衛星(GSO)=静止衛星(気象衛星や 旧来の通信衛星)、高度36,000km、・水色:低軌道衛星(LEO=Starlinkの主投資 領域、高度500km (換算例:地球を12,000km→12mに縮尺すると GSOは36m、LEOは50cmに相当)
この距離差がカバー領域の違いを生むことを 示している。

出所)Wikipedia掲載図に筆者加筆 

 

図4:「Direct-to-Cell」のハイプサイクル上での位置付け
(図中では「Direct-to-Device」と表現、青丸は2〜5年先を予測)

出所)NewSpace Index 

 

■接続を限定的とみるか、未来の窓とみるか

現状のStarlink通信は、地上の5Gネットワークが提供する数百Mbps~数Gbpsの高速大容量通信と比べると性能面では劣る。現段階での用途は、音声やSNSといった緊急通信に限定されるだろう。

たとえば、対戦型オンラインゲームやVRなど低遅延(低レイテンシー)を要求する用途では、地上5Gが依然として有利だ。また屋内やビル陰では衛星との直通が難しく、利用には「空が見える場所」という制約が伴う。とはいえ、音声通話や一般的なデータ通信(AIとの会話を含む)における遅延は許容範囲であり、特に山間部や海上など他の手段がない場面では十分に実用的だ。この利便性はすでに世界中で急速に広がっている。



図5:KDDI/auによるStarlinkバックアップ回線サービスの開始事例

出所)au.com

 

広大な米国では、自宅が圏外となる携帯ユーザーや、登山・航海を楽しむ層に需要があり、月額10~20ドル程度の付加サービスであれば受け入れられる水準である。実際、T-Mobileはこの「非常用バックアップ通信」をきっかけにプレミアプランへの誘導や他社ユーザーの獲得を仕掛けており、市場からも好意的に受け止められている。日本でもKDDI/auが2025年8月に同様のサービスを開始した(図5参照)。

投資の観点から見ると、地上の5Gは「Gbps級で高速ミリ波通信を実用化しているが、鉄塔基地局を僻地にまで均一に展開せざるを得ない」という構造的課題を抱える。

一方、StarlinkDirect-to-Cellは「速度はMbps級でLTE帯域に留まるが、世界規模ですでにカバー済み」という補完関係にある。この両者の組み合わせは補完に見えて、時に逆転現象を生み技術進化を加速させる可能性がある。

総じて、衛星によるDirect-to-Cellは、既存キャリアが巨額投資してきた周波数・地上設備・従量課金モデルを補完しつつ活用可能だ。さらに、従来は採算が取れなかった領域に新たな付加価値サービス(サブスク)を提供できる点で、投資効率と収益機会の両面から極めて魅力的な選択肢となっている。



図6:衛星コンステレーション(上空)から地上ユーザーまでの垂直構造を図解

出所)筆者のプロンプトに基づきChat GPT-5が生成した略図

 

■衛星通信のゲームチェンジ(追いつきから逆転へ)

StarlinkはEchoStarから約170億ドルを投じ、約2GHz帯の広帯域ライセンスを取得し、グローバルに利用可能な自社保有のスペクトラム(電波帯域)資産を手に入れることになる。

これにより、地上キャリアに依存して周波数を借用する従来構造から脱却し、今後は独自の5G向け周波数帯を武器に、通信速度・容量の両面で地上5Gに匹敵するサービス展開への道が拓ける・・・



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