MAD MAN MONTHLY REPORT

Vol.125 “電源主権”の時代 ─ 生成AIが引き金となる新エネルギー 争奪戦




<4月号の目次>

◎ 「@No Fixed Address」という名のエージェンシー

◎ Google独禁法訴訟から読み解くAI時代の楽観的シナリオ

◎ “電源主権”の時代 ─ 生成AIが引き金となる新エネルギー争奪戦 

◎ 【コラム】電力の限界:AIの返答に待たされる理由

◎ 【コラム】MAD MANが解説する日本でのニュース


“電源主権”の時代 ─ 生成AIが引き金となる新エネルギー争奪戦

 

AIという「電力で育つ生物」への投資拡大

 

図1:ウラン可採埋蔵量の地域別分布(2021年時点)

出所)Uranium 2022 Resources, Production and Demand(IAEA発行)

 

トランプ関税リストの是非や米中貿易交渉、プーチン政権との和平交渉など、近年の国際政治におけるテーマは、単なる「報復関税」といった二極化発想に留まらない。各国は、国家単位では対応しきれないエネルギー構造の大きな変革に直面しており、これらの政治的取り組みは新たな貿易・国力の枠組み構築に向けた第一歩と捉えることができる(図1参照)。

現在、AI分野では「Nvidia」によるAIチップの急速な進化や、「Open AI」「Google」「Tesla」による高速アルゴリズム開発が注目されている。しかし、これら技術革新の根底にあるのは、安定した電力供給の確保だ。AIの活用領域や可能性を議論する以前に、まず「AIを動かすための動力源(=食糧)」、すなわち電力インフラの整備が喫緊の課題となっている。

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AI普及でデータセンターの消費電力 2030年までに2倍以上に IEA

2025年4月11日 NHK
出所:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250411/

<以下抜粋>
一般的なAI向けのデータセンターは1年間に10万世帯分の電力を消費するとして「安く信頼性の高い持続可能な電力供給はAI開発に重要だ」と指摘しています。
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近年の報道に見られる「AIはGoogle検索の10倍の電力を消費」「データセンター需要は4年で2倍に拡大」「原発再稼働の動き」などは、電力エネルギーの重要性が再認識されつつあることを示している。しかし、これらはあくまで過去のデータに基づくものであり、本質的な未来像を示すには至っていない。

たとえば、「一般的なAI向けデータセンターは中規模都市10万世帯分の電力を消費する」といった表現や、「OpenAIやAnthropic、Google、DeepMindといった先端AI企業が1回のトレーニングで数百メガワット時(MWh)の電力を消費する」という事例も、すでに数ヶ月前の状況を基準としたものであり、急速に変化する現状を捉えきれていないのが実情だ。

こうしたなか、ソフトバンクの孫正義氏も年次総会において、近未来における電力不足を事業投資の核心テーマとして掲げている。

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半導体・データセンターだけじゃない!ソフトバンクグループの投資テーマに「電力」が急浮上の意味
2025年4月18日 東洋経済オンライン

出所:https://toyokeizai.net/articles/-/871728

<以下抜粋>
突如加わった4つ目のテーマ
2025年2月の決算説明会では、これら3つのテーマに、突如として「電力」が加わった。(中略)アメリカで約75兆円を投じ、OpenAI向けにデータセンターを整備しようというソフトバンクグループにとって、電力は深刻なボトルネックになりかねない。
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生成AIの飛躍的な発展を左右するのは、技術力そのものではなく、それを支える電力インフラの有無だ。今後の世界経済における思考や投資の軸は、目に見える成果(いわば「鍋の中の料理」)ではなく、根底を支える「動力エネルギー(鍋底)」に移行している。

現在、米国やEU、ロシアといった主要国は国策を越え、「AIを支える電力をいかに確保し、経済圏として強調するか」という新たな枠組みづくりに動き始めている。この成長の波にどう乗るかを考えることこそが、本稿の主題である。これまで半年単位で進化してきたAI関連の動向は、いまや数年単位で本格的な構造変革を迎えている。

日本企業にとっても、これは決して大企業だけの問題ではない(たとえば、三菱・三井・日立・NTT・トヨタ・東電など)。AIと電力は、すでに経営判断や政策対応において不可分な要素であり、すべての企業活動の基盤となりつつある。

発電所を自社で保有する必要はないが、今後は電力供給に関する戦略的提携が必須となるだろう。それに伴い、企業規模に応じたさまざまな投資機会や派生的な取り組みが増加することが予想される。

図1は、そうした未来を示唆している。この図はIAEA(国際原子力機関)が4年ごとに正式発表している「レッドブック」の報告だが、現行の情報は2021年時点、すなわちウクライナ紛争前のものである。主要各国はすでに2025年現在の最新データを把握しており、それに基づく次なる戦略(関税課題や国際協議)を進めている。なお、次回のレッドブックは2026年版として発表予定だ。

MAD MANレポート読者には、自社のマーケティング戦略を再確認する機会として、今後の動向を①〜④に分けて整理、解説しよう。

 

■①米国政権が注目するロシア「Rosatom社」の垂直統合型エコシステム

下記のロイターの記事にもある通り、次世代原子炉向け燃料である高純度低濃縮ウラン(HALEU)は、ロシア国営の「Rosatom社(ロスアトム)」が事実上独占している。同社は2007年、国策により再編・設立され、ウランの採掘から発電、さらにはリース供与・燃料再処理までを一貫して手掛ける世界唯一の垂直統合型エネルギー企業グループである。この構造は、単なる技術力に留まらず、国家戦略としての経済圏形成や同盟関係にも影響を及ぼしている。

(※以下、MAD MANレポート「2024年12月号 Vol.120」より抜粋)

■米国もロシアと中国に大きく後れを取る

この数年、米国政権は「地球環境に優しいSDGs」を掲げ、太陽光発電や風力発電、バッテリーEVの普及、さらには「脱原発」と唱えてきた。しかし、その間にロシアと中国は、AI時代に対応したデータインフラとしての電力確保に向けて着実に進展を遂げている。

ロシアは、既に他国への小型原子炉(SMR)の輸出を実現している。さらに、必要とする国々に対して兆円規模の長期融資(たとえばトルコバングラデシュ)を提供しており、建設からメンテナンスまでを包括的に支援している。これらは技術者の派遣も含まれており、エネルギー分野における国際的な優位性を強固なものとしている。

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焦点:米の次世代小型原子炉、燃料調達で「ロシア問題」に直面
2022年10月20日 ロイター日本語版

出所:https://jp.reuters.com/article/world/

<以下抜粋>
次世代の小型原子炉開発を進めている米企業が今、大きな問題を抱えている。それは、燃料として必要な高純度低濃縮ウラン(HALEU)を販売しているのが、ロシアの企業1社しかないという現実だ。
HALEU(読み:ヘイルー): High-Assay Low-Enriched Uranium
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図2:米国エネルギー省によるSMRおよび原子力エネルギーに関する教育用アニメーションの公開

出所)U.S. Department of Energy

 

ロスアトムが構築する垂直統合型エコシステムは、原子力発電に関わる全工程を自社グループ内で一貫して提供する世界唯一の体制で、そのプロセスは以下の通りだ。

  1. ウランの採掘(資源開発技術)
  2. ウランの安全な精製(精製技術・専用施設)
  3. 高純度低濃縮ウラン(HALEU)への加工およびパレット化(図2参照)
  4. HALEUパレットを用いた小型モジュール炉(SMR)の設計・建設(技術者派遣・研究実績・稼働実績含む)
  5. 海外への発電所輸出と各国へのエネルギー自立支援
  6. ロシア国家保証による数十兆円規模・数十年単位のリース提供
  7. 使用済み燃料の回収および再処理

この全プロセスを網羅的に保有・運用している国や企業は、米国を含めて世界に存在しない。いわば「原子力のAmazon」と例えることができる。単なる製品販売に留まらず、事業そのものを包括的に提供することで、持続的な経済発展モデルを確立している。

 

図3: Rosatom公式サイトにおける実績紹介-原子力発電所39件、SMR6基、10カ国への技術輸出を掲載

出所)Rosatom

 

ロスアトムは、ベトナムカザフスタンエジプトアルゼンチンなど10カ国以上と原子力供給協定を締結し(図3参照)、SMRの導入を進めている。これらの国々は大規模な火力発電への投資余力が乏しく、AIデータセンター拡大以前に「安定した電力供給」を必要としてきた。新興国の成長を下支えしているのが、ロシアの電力戦略であることは見逃せない。

現在、米国はウクライナとの間で「レアアース共同採掘」の名目による協定を進めているが(2025年初頭のトランプ大統領とゼレンスキー大統領との協議)、実質的にはウラン資源へのアクセス拡大が狙いと見られる。ウランは偏在性の高い戦略資源であり、AI時代の成長はこのエネルギー供給に大きく左右される。

たとえば、辺境地域に存在するレアアース鉱石の大半は、外見上は単なる「岩石」に過ぎない。しかし、その内部にはわずか0.1%ほどの貴重な資源が含有されている。レアアースの構成元素には、ウランやトリウムといった放射性元素が含まれており、これらは他の元素と性質が類似しているため、精製過程において高度な分離・抽出技術が不可欠だ。この技術的・経済的ハードルこそが、ウクライナ単独では採掘が進まない、いわゆる「宝の鉱山が未活用のまま残されている」主因となっている。

こうした背景から、米国やロシアが技術力と資金を提供し、共同開発を進める動きは自然な流れと言える。さらに、中国はレアアース精製において高い技術力とコスト競争力を有しており、近隣諸国に対して優位な立場を築いている。

これら一連の動きは、従来の軍事同盟に依存した国際関係から転換し、資源供給の安定化を目的とした経済連携を重視する新たな地政学的潮流を示している。米国はこれまでNATOを軸に外交・安全保障政策を展開してきたが、2025年現在、AI競争とエネルギー確保を巡る争いが水面下で激化するなか、多極化や各国の自立化を見据えた新たな同盟構築を進めている。

一方、ロシアや中国が先行して築いてきた資源・エネルギー経済圏に対し、過去の米国政権は環境保護政策を優先した結果、対応が遅れた側面がある。「カナダを米国の51番目の州に」や「グリーンランド(デンマーク自治領)の米国領化」といった現政権による発言も、こうした状況を受けた国内外への意識喚起の一環と捉えられる。

現在、Microsoft・Amazon・Alphabet・Oracleといった大手企業は、既存の原子力発電との契約を短期的な対応策と位置付けている。米国内では、急ぎテキサス州、ワイオミング州、ノースダコタ州を中心に、次世代型SMRの設置許認可や連邦補助金制度の拡充が急ピッチで進められており、エネルギー戦略の再構築が本格化している。

 

■②再生可能エネルギーはAI時代に 不向き”な現実

風力発電や太陽光発電に代表される再生可能エネルギー(再エネ)は、これまでSDGsの象徴的存在として脚光を浴びてきた。しかし、その本質的な課題として、「供給の不安定」「蓄電コストの高騰」「地理的・気候条件への依存度の高さ」が挙げられる。

これらの特性は、AIの運用に求められる要件、すなわち「止められない電力供給(同時同量の原則)」や「飛躍的に増大するエネルギー需要」とは極めて相性が悪いと言わざるを得ない・・・

 

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